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ラプラスの書 §3-2

何ヶ月ぶりか調べるのも恐ろしいくらい間が空いてしまいした・・・
ちょこちょこ書き足してはいたものの、全く進まねぇw

実は「トレミーな一日」編で一話分書くつもりだったんですが
いつものごとく長くなって、全部書いてたらまだまだかかりそうだったので分割しました。

まだまだ道は長そうです。

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「贖罪のカルネアデス」
 【2】(トレミーな一日 A)
 
 普通、人は自分の姿を自分で見ることは出来ない。
 だから久しぶりに鏡を覗いたりしたときは、なんだか恥ずかしいような気がしたりする。
 つまり、もしある日突然自分が別の姿になってしまったとしても、それは自分で鏡を見ない限り分からないのだ。
 たとえば今みたいに。
 目の前の姿見に映っているはずの自分の姿は、自分の記憶の中の自分とは全く違っている。
 
 俺はトレミーになっていた。

「マジかよ・・・」
 思わず呟いたその声も俺の声とは全く異なるちょっと舌足らずなトレミーの声。
 しかも、直接骨に響いて聞こえるため普段聴いているトレミーの声とも若干異なっていて、それが余計に自分がトレミーなのだということを意識させる。
 『朝起きたら――』なんて事は近頃じゃ漫画の中などでよくあることなのかもしれないが、こうして実際に我が身に起こってみると、全く持って訳が分からない。
「・・・」
 しばらくこんな状況に陥ってしまった原因が何なのか探ってみるがなにも心当たりがない。
 とりあえず、落ち着いて昨日の記憶とたどってみることにする。
 えーっと、そうだ。確か昨日はトレーニング中にトレミーが倒れたんだ。
 突然ピクリとも動かなくなってしまったトレミーをノエルと一緒に急いで家まで運んで部屋に寝かせたんだ。
 その後もノエルが賢明に原因を究明しようとしていたのだが、なかなか解明するにはいたらなかった。
 俺も夜遅くまで近くで見守っていたのだが、そこで記憶は途切れている。
 おそらくトレーニングの疲れもあっていつのまにか寝てしまったのだろう。

「で、気がついたら俺はトレミーになっていた、と・・・」
 よくよく辺りを見渡せばここは見慣れた自分の部屋ではなく、今はトレミーが使っている隣の空き部屋だった。
 普段はもっぱら物置として使っていたため、未だ片付けられていない荷物が部屋の片隅に置いたままになっていて、その中のひとつにおあつらえ向きに姿見があるのだった。
 俺は改めて姿見に向き直る。
 結構大きめの姿見なので小柄なトレミーの姿はすっぽりとその中に収まっている。
 気付いてみればトレミーと改めて出会ってからもう数週間が経った。
 それでも、こうしてじっくりとトレミーの姿を見ることは初めてだった。
 トレミーには以前憑依した事があるが、そのときはカルネアデスとの戦闘の真っ最中でこんなふうにじっくりとトレミーの姿を確認する余裕なんて無かったのだ。
 そっと頬に触れる。
 鏡の中のトレミーも同じようにその手を頬に触れさせる。
 つんつん、と指先で押してみると、その水分をたっぷりと含んだ白い肌はぷにぷにと心地よい弾力をしていた。
 その指も白く、細く、華奢で、まるで飴やガラスを細工して出来ているかのように綺麗な曲線で出来ている。
 ゴツゴツした俺の指とは大違いだ。

krn_3_1.jpg

 俺がトレミーにあげたTシャツも、やはりトレミーには大きくまるっきりダボダボで袖が肘の辺りまである。
 しかし、それがトレミーの童顔に妙にマッチして一段とかわいらしさを引き立てているように思えた。
 いくらサイズが合っていないとはいえ、Tシャツでは足全体を覆うことなど出来るはずもなく、股下数センチの所から覗くむき出しの太腿はまるで輝いているかのように白い。
 ダボダボなTシャツで体のラインが見えないが、逆にそれが想像力を刺激して、薄い生地一枚で隔てられたその向こうに何があるのかという興味を駆り立てる。
 そして、今ならばそれを自分の意志で見ることが出来る。
 自分のその感情に気づいてしまった事を誤魔化すように俺はキョロキョロとあたりを見渡す。
 トレミーの癖っ毛がふわりと宙を舞う。
「・・・」
 改めて鏡に視線を戻せば、トレミーが恥ずかしそうにこちらを見ている。
 頬が自然と上気し、それがより一層鏡の中のトレミーを魅力的にしていく。
 ドクン、心臓が高鳴る。
 その音にかき消されるように頭の中が真っ白になっていき・・・
「ユウー、トレミーちゃーん、そろろそ起きなさいよ~」
 狙い澄ましたかのようなタイミングで母の声がかかる。
 ビクッといつの間にか伸びていた手を慌ててひっこめ、再びキョロキョロとあたりを見渡す。
 バクバクと心臓はさっきとは別の理由で激しく鼓動し、それを必死に抑えようとしていると不意にガチャリ、とドアが開いた。
「クク、惜しかったな」
 ドアを開け入ってきた人物に俺は更に驚愕する。
「・・・俺!?」
 入ってきたのは他ならぬ俺だったのだ。
 ・・・ちょっと待て。
 俺が目の前にいるということは、つまりは俺じゃない俺が別で存在するわけで・・・
 あ、そうか。今、俺はトレミーだったんだ。なーんだ、そんなことか。
 ・・・いやいや待てよ。
 確かに今は何故かトレミーになっているが、間違いなく俺は俺だ。
 じゃあ、俺の目の前にいる俺は誰なんだ・・・?
「驚いたか?」
 混乱した俺を眺めている俺がさも面白そうにニヤリと笑った。
 その仕草に俺は違和感を感じる。いくら俺でもあんな笑い方はしない。
 こんな仕草をするようなのは・・・
「アルキメデスか。脅かすなよ」
「おっ、正解。さすがはご主人サマだねぇ」
 正体がバレたニセモノの俺は一層笑みを強くする。
 コイツはアルキメデス。俺のもう一匹の使い魔だ。
 今は俺に化けているが、本当の姿は長い年月を生きて霊的な力を持ったネコ、いわゆる『猫又』というやつだ。
 こうして霊媒物質〈エクトプラズム〉を練って、それ纏うことで他人に変身することが出来るのだ。
「なんで俺に化けてるんだ?」
「ノエルに頼まれたんだよ。昨日の夜叩き起こされてさ、ユークリッドに変身して部屋で寝てろって」
 俺の質問にぶっきらぼうに答えるアルキメデス。
 しかし、自分の顔を見上げて会話するっていうのはなんとも不思議な感覚だな。
「おまえは何か知ってるのか?」
「さあな、それ以外詳しいことはオレも知らねぇよ」
 ともかく、この事態にはノエルが関係しているらしい。
 アルキメデスに俺に変身することを頼んだのも、俺がトレミーになっていることを知っているからこそなのだろう。

「おい、ノエル!起きろ!」
 俺はノエルの部屋に入るなり、いまだ布団の中にうずくまっているノエルを揺り起こす。
 結構強く怒鳴っているつもりなのだが、トレミーの声ではイマイチ迫力に欠ける。
「ふぁぁ、朝っぱらからなんなのよ、トレミー」
 何度か強く揺さぶって、ようやくノエルがもそもそと動き始める。
「・・・じゃなくて、今はユークリッドか」
 やはり、ノエルは何か知っている。
 俺の予想は確信に変わり、俺は思わずノエルに詰め寄っていた。
「一体、何が起こってるんだ?」
 その質問にようやく昨日の事態を思い出したのだろう、ノエルが心なしかキリッと顔を整えて改めて俺に向き直る。
「簡単に言えば、この前トレミーが倒れたのと同じような状況が起こってるのよ」
 確かにトレミーは少し前に同じように意識を失っている。
 その際はカルネアデスがトレミーの意識を乗っ取り、俺から〈ラプラスの書〉を奪おうとしたのだ。
「カルネアデスがまたトレミーを操っているのか!?」
「まあ、落ち着いて。そこは前回とは違うわ」
 食って掛かる俺をノエルは冷静にいなしめる。
「いい?今、トレミーには二つの〈契約〉が掛かっている状態なの。一つはカルネアデスとトレミーの間に結ばれた契約。そして、もう一つがあなたとトレミーが幼い頃に結んだ契約よ」
「それは知ってる」
「まあ、契約自体は同時にいくつかすることが出来るんだけど、問題なのはその効力が重複しているという点ね。その場合、二つの契約がぶつかり合ってしまって、どちらかが優先されることになるの」
 俺を落ち着かせようとしているのか、ノエルはゆっくりと話し出す。
「今回の場合、昔あなたとトレミーが結んでいた契約の方が強制力が強かったのね。だから今はカルネアデスとの契約を打ち消すことが出来ているんだけど、問題はカルネアデスの契約のほうが生体人形をコントロールする役目も持っていたということね」
「コントロール?」
「そう。生体人形は人間を模して造られているから、今のように無理矢理〈深淵の猫〉であるトレミーを中に入れて使うようには出来てないのよ。どうしても細かい所で不都合が出ちゃうんだけど、カルネアデスはそれを契約で接続した意識でその都度修正していたみたいね。特にトレミーに流入するエーテルを使う時に無理が生じるみたい」
「だから、トレミーはトレーニング中に力を使おうとしたら、うまくいかずに止まってしまった、と?」
「そーゆーこと」
「それは、分かった」
「うんうん、飲み込みが早くて助かるわ」
「じゃあ、なぜ俺はトレミーになってるんだ?」
「ああ、それはトレミーの体である生体人形には『命の琴線』に通ずるもの、いわゆる『生命の根幹』がないのよ。結局は造り物の体だから、自分で生きようとする意志がないのね。だから、放っておくとすぐに生命活動が維持できなくなっちゃうの。それで、近くに寝てたあなたの魂をちょいっと入れさせてもらったってワケ」
 なるほど、俺はノエルにそのあたりに適当にあったあり合わせの乾電池的な扱い方をされたってことだ。チクショウ。
「いや~、あなたの幽体離脱は一度見てたから、魂の位置も特定しやすくて一発でスポッと抜けて助かったわ。そこでミスると魂に異常が出て精神分裂とか起こしちゃうから厄介なのよね~」
 ハハハ~と軽快に笑うノエル。だが、その話の内容は軽く笑い飛ばせるようなものであるはずもなく、その軽さが逆に俺をゾッとさせた。
 成功したからいいようなものの、下手をすれば俺は精神病院送りになってたかもしれないってことだろ。
「そうするしか無かった状況なのは分かるけど、頼むから次からはやる前に言って欲しいんだけど・・・」
「はいはい、善処するわ」
 あからさまに面倒くさそうにノエルは答える。
 うわ、全然聞く耳持たれてないよ。
「しかし、よくもまぁこんな複雑なもの造ってくれたわね。いくら専門じゃないからといって解析に一晩かかるなんて・・・」
 くぁぁ、と長い欠伸を漏らしたノエルをよく見れば確かに目は腫れぼったく、薄くクマも出来ている。
「ありがとな・・・」
「いいのよ、私も興味あったからね」
 なんだかんだ言って今回もノエルに助けられたのだ。
 俺一人の知識と技術では何も出来ずにただオロオロするしかなかったのは目に見えている。
「じゃあ、早速元に戻してくれ」
 原因が解ったならば元に戻すことだって出来るはずだ。
 そう考えた俺ははやる気持ちを抑えきれずに率直にそう言った。
「ダメ」
「・・・」
 俺の希望がにべもなく一蹴され、束の間頭の中が真っ白になる。
「なんで!?」
「さっきも言ったでしょ、トレミーの意識がないって。だから直接コントロールする意識がないとすぐに生命活動が維持できなくなってしまうのよ。別に、抜け出すだけならいつもの幽体離脱の要領でやれば簡単にその体からは抜け出せるわよ。ただ、すぐにその体は細胞が死んで腐っていっちゃうわよ。それでもいいの?」
「うっ、それはマズイ・・・」
 『腐る』という言葉に少しグロい想像をしてしまい、それを防げるならばと納得するが、ふと頭に引っかかることがあった。
「ちょっと待て、俺の魂がトレミーの身体に入ってるって事は、俺の身体の方は抜け殻ってことだよな・・・まさか腐ったりしないよな?」
「ご心配なく。あなたの体は造り物じゃないちゃんとした生の肉体だから、一日ぐらい意識がなくても勝手に生きてくれるわ」
 そう言われてみれば、以前に俺が幽体離脱して魂が抜けた状態でも俺の体はまるで眠ったような状態で呼吸など最低限の生命活動は維持されているようだった。それに対しトレミーは前回も今回も意識がなくなってしまったときは呼吸もしておらず、正に死んだような状態だったことが思い出された。
「それに、そのへんの浮遊霊に乗っ取られないようにちゃんと結界を張ってあなたの部屋の押し入れに押し込んであるし」
「ふう、それなら安心だ。俺の部屋の押し入れに押し込んで・・・」
 その語感に嫌な予感がした俺は言い終えるより早く駆けだして俺の部屋に向かった。
 ダン!と少し乱暴に押し入れを開けると、そこには正に『押し込んだ』という表現が適切なぐらい凄い体勢で俺の体が横たわっていて、その四隅にいかにも投げやりに組んだ結界が張られていた。
 恐らく眠気と疲労でそれどころでは無かったのだろうけど、もう少し丁寧に扱って欲しいな・・・と、なんだか悲しくなりがら俺の体をせめて負担の掛からないような姿勢に正していると、もう一度キッチンから母さんの呼ぶ声が聞こえた。

 俺に変身しているアルキメデスと何も知らない母さんと一緒に微妙にぎこちない朝食をなんとか済ませ、俺は再びノエルの部屋に向かう。
 ノエルはどこから取り出したのか、いかにも時代を感じさせる古い本を何冊も広げてノエルの〈ラプラスの書〉である携帯端末を片手に何かを調べているようだった。
 俺の体の扱いに少々文句を言おうかとも思ったが、こうして俺達のために何かをしてくれる人にそんなことを言う気にはなれなかった。
 ノエルはスラスラと本を参照し、携帯端末を操作してからまた別の本のページをめくる。
「とりあえず、カルネアデスの代わりにあなたと接続して細かな生命活動のフォローを出来るようにする魔術を組むから。そのマッチングのためにもあなたがその体に入っている必要があるのよ」
 そのまま声を掛けるのも躊躇われて、ただ立ち尽くしていた俺にノエルが声を掛ける。
 何が書いてあるのか気になって、俺もちらりとその本の内容を覗いてみるが、記号とも象形文字とも付かないようなものが規則正しく羅列されているだけでやはり俺には到底理解出来そうにない物だった。
「ただ、私はそっちの専門じゃないからね。色々と調べたり聞いたりしないと無理なのよ。だから、とりあえず今日一日はそのままでヨロシク」
「トレミーの意識はどのくらいで戻る?」
 本の解読を諦めた俺はまだ黙々と作業を続けるノエルにそう訊いてみる。
「さあね、それはトレミー次第よ。とりあえずシステムの方は復旧してあるから、あとはトレミーの意識が目を覚ますのを待つしかないわ」
「いつ戻るかは解らないってことか・・・」
 試しに自分の意識の中でトレミーを呼んでみるが、反応はなかった。
 それでも、以前トレミーに憑依したときのように俺の中にトレミーの気配があるのを微かに感じる。
 とりあえずは気長に待つほか無いようだった。
 ただ、いつトレミーの意識が戻るか分からないというのは結構大変な事態なんじゃないか?
 もしも、だ。
 例えばトイレの最中なんかにトレミーが意識を取り戻したりしたら・・・凄く最悪じゃね?
「今日は家でじっとしてた方が賢明だな・・・」
「むっ、サボる気?」
 思わず口からこぼれた言葉にノエルがすかさず反応する。
「別に、わざわざ学校に行かなくても、このまま二人して病欠でもすればいいだろ?」
 わざわざ地雷原に勇み足で突き進んでいく必要は無いのだ。
 風邪だとか適当に言って一日家に居ればいいだけの話。
 俺には学校で一日はおろか数時間だってトレミーとして振る舞うなんて出来る気がしないし、トレミーが意識を取り戻したらマズい場面は家に居るより学校で授業を受けている方がずっと増える事になる。
「おねーさんは感心しないわね。いろいろな動作をした方がマッチングがうまくいく可能性が高いのよ。それに、二人して病欠なんてしたらあの子血相変えて来るわよ?」
 ノエルの言う「あの子」というのははるかのことだろう。確かにはるかには俺とトレミーが同棲していることがバレているので、とんでもない邪推をしてこの家に単身突撃してくる可能性は十分あるように思える。
「・・・あっ」
 何か他に妙案はないものかと頭を巡らせていると、俺は不意に決定的な学校に行く理由を思い出してしまった。
「今日は追試があるんだった・・・」
 身の回りで立て続けにとんでもない状況が起こりまくった俺の成績は順調に降下していき、ついに先の期末試験で赤点を採ってしまったのだった。
 まさか留年なんてことにはならないだろうが、やはり来年には受験を控えた悩める中学生の俺としては、ここでの成績の低下はなんとしてでも避けたいところであり、今回の追試である程度の点数をとることが出来ればその分成績に補正が付くのだ。
「ほらほら、また奴が襲ってきたときのための訓練だと思って、少しでもその体になれておきなさいよ。まあ、トレミーの意識が寝てるだろうから、外部のエーテルを流入させることはできないでしょうけど」
 さらにダメ押しでノエルがそう言ってくる。なんだか面白がられているのはきっと気のせいではないはず。
「仕方ないか・・・」
 俺は渋々諦めを付けてトレミーの部屋へと戻っていった。
 
 制服は一度はるかの体で脱ぐことはしていたので、以外にすんなりと着ることが出来た。
 ただ一挙手一投足のたびにあの女子更衣室での光景がフラッシュバックし、精神的には全く持ってすんなりとは行かなかったが。
「むぅ」
 改めて姿見に映った自分の姿を前にして俺は思わず溜息を漏らす。
 そこには見慣れたセーラー服に身を包むトレミーの姿がある。
 はるかはそのすらっとした雰囲気がセーラー服とよく似合っているが、身長の低いトレミーだととても可愛らしく感じられ、これもまたよく似合っていると思う。
 しかし、これが自分の姿なのだと思うとどうもムズ痒い。
 数秒と直視することに耐えられず、俺はさっさと鞄を取って玄関へと向かうのだった。

「おはよう、トレミーちゃん。もう熱は下がったの?」
 玄関先にはもう俺の姿をしたアルキメデスと母さんが待っていた。
「うん・・・」
「良かったぁ。昨日は帰って早々寝込んじゃうから、おばさん心配しちゃった」
 母さんが俺を見る視線がいつもと違うような気がする。
 やはり、俺をトレミーとして認識しているのだ。
「どうしたの?元気ないみたいだけど・・・」
 目の前にいるトレミーがまさか実の息子などと思うはずもなく、母さんは何気なく声を掛けてくる。
「な、なんでもない・・・よ」
 俺の歯切れの悪い返答を疑問に思ったのか、母さんはふと考え込むような仕草をして、はっと何かに気づいたようにしてから意味深な視線をこちらに向け直す。
「ご両親も出張で大変なんでしょ、ここにいる間は本当の家だと思ってもらっていいんだからね」
 そういえばそんなふうにトレミーのプロフィールをねつ造していたんだっけか。
「・・・うん」
 俺はどう対処していいか分からずにちょっと俯き加減に答える。
「・・・!」
 何かプレッシャーのようなものを感じてはっと顔を上げると、いつのまにか母さんが満面の笑みですぐそこまでにじり寄ってきていた。
 今日初めてトレミーとして生活している俺としては全く自覚がないのだが、端から見ればいたいけな少女が憂いを帯びた表情で恥ずかしそうに頷いているのだ。
 これが可愛くないわけがない。
 そのままギュッと捕獲され、すりすりと頬を寄せられる。
「トレミーちゃんは今日もカワイイわねぇ~ホント私の小さい頃にそっくりだわぁ~」
 うう、くすぐったい。この年になって母さんにこんなことされるのが凄く恥ずかしい。
「こーら、暴れないの」
 なんとか逃れようとジタバタともがくが、小柄なトレミーの身体ではどうやっても抜け出すことは出来ず、かといって戦闘人形の筋力を発揮して無理にふりほどこう物なら母さんがどうなるか分かったものではない。
 俺は仕方なく母さんにされるがままスリスリと頬摺りされるのだった。
「トレミー、リボン忘れてるわよ?」
「・・・あっ」
 唐突にそう後ろから声を掛けられ、振り向くとノエルがリボンを手に立っていた。
 その顔は間違いなく少しだけニヤけている。
 トレミーの正体が俺であることを知っているノエルがどんな想像をして顔をニヤけさせているのかと思うと、途方もなく小っ恥ずかしく、どんどんと顔が紅潮していく。
「トレミーちゃん、おばさんが付けてあげる」
 そんな俺の気持ちを知る由もない母さんがノエルからルンルン気分でリボンを受け取る。
 その真っ黒なリボンは魔力の干渉を防ぐとされる夜綿を使用した生地で造られた物で、ノエルがトレミーに渡していたものだった。
「ほ~ら、後ろ向いて」
 そのままくるりと向きを変えられ、ノエルが一緒に持ってきた櫛で髪を梳いてささっと癖っ毛を束ねると、そのまま慣れた手つきで黒いリボンをキュッと止める。
「はい、できた」
「ありがとう・・・」
 トレミーのボリュームのある髪が頭の後ろで持ち上げられ、いままで肩にあった髪の感触が無くなってかなり動きやすくなったような気がする。
「いってらっしゃい」
「じゃあ、今日はよろしく頼むわね」
「レイも気をつけて」
 母さんに手を振るノエル。
「トレミーも、いってらっしゃい」
「・・・いってきます」
 わざとらしい笑顔のノエルに憮然とそう返して、玄関のドアを開ける。
 こうして俺のトレミーな一日は幕を開けたのだった。

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