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ラプラスの書 §3-1

うーん、やっとこさ出来きました。

無駄にこんなの描いてるから時間が無いんですよね・・・
世のマンガ家さんは凄いなぁと改めて実感させられました。

さて、のっけから厨設定全開でもう悪い意味で他の追随を許さない本作です。
完結する日はまだまだ先そうですが、頑張って書きたいです・・・

それでは、ラストセクション、不思議発見!(違

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「贖罪のカルネアデス」

【1】
 緩やかなまどろみの中に、遠くチュンチュンと雀が鳴く声が聞こえる。
 少しづつ動き始めた意識が瞼の向こうで朝日に白く照らし出された自分の部屋をイメージさせる。
 ああ、もう朝なのか。
 今日は日曜日。もう少しぼんやりと朝の中に意識を浮かべているのも悪くない。
 だが、そんな爽やかな朝の空気をブチ破るように、ドタドタドタと騒がしい足音がどんどんと近づいてくる。
 そのまま、足音が俺の部屋の前まで来た所でピタリと止まり、ガチャリ、とドアを開ける音がしたかと思うと、
「ユークリッド様っ!」
 何かが俺の上に降ってきた。
「ぐへぇえっ!」
 スーパーリラックスモードだった俺にその奇襲に対応する術などあるはずもなく、下腹部に落下してきたその何かの直撃を受けて、俺は奇声を上げつつ飛び起きる。
「おはようございます、朝ですよーっ!」
 しかし、その何かは追撃を怠ることなく、パニック状態の俺の耳にすかさず大音響を浴びせかけて戦意を喪失させる。
 奇襲の第一撃により脳細胞が一気に超緊張状態まで高まり、続けざまに入力された耳からの大音量によって俺の脳の処理能力がついには限界を超え、頭の中がチカチカしながら再び意識を失いそうになる。
「あれれ?まだ起きないや」
 すぅ、と空気を吸い込む音に、再びあの大音響を耳にぶち込まれる危機を察した意識が瞬時に立ち上がり、俺は慌てて声を張り上げる。
「いやいや、起きてる!十分に起きてるからっ!」
 はぁはぁと肩で息をしながら、今まさに大声を張り上げようとしているその少女をなんとか制止する。
「おはよう。ユークリッド様」
 そんな俺の様子なんて一切気に掛けることなく、その少女はにっこりと笑ってそう言った。

cal01m.jpg

「・・・ああ、おはよう」
 俺は半ば溜息混じりにそう挨拶して、まばゆい朝日を背中に受けて微笑むその少女の顔をまじまじと見つめる。
「ん、どうしたの?」
 今、俺の上に跨がって不思議そうに俺をじっと見つめているこの少女は、トレミー・マヴデイルという。

 彼女は人間ではない。

 無邪気な視線を放つその瞳は透き通るように碧く、瑞々しいまでの透明感を持つぷっくりとした頬は見るからに柔らかそうだ。
 しかし、今思えばその洗練された美しさはやはりどこか完璧すぎるような印象を受ける。
 今のトレミーの姿は『生体人形』と呼ばれる魔術によって人工的に造られたものらしい。
 その体に埋め込まれた『空間方解石』と呼ばれる水晶により空間を分割し、その中に〈深淵の猫〉と呼ばれるトレミーの本体が入れられているのだという。
 ――〈深淵の猫〉。
 なんでも、それは世界に穴が開いたような存在なんだそうだ。
 もう一度改めて詳しい説明を聞いたのだが、そのあまりに今までの常識からかけ離れた理論に未だイマイチ理解出来ていない。
「・・・?」
 トレミーは難しい顔をしたままじっと考え込んでいる俺を不思議に思ったのか、首を傾げて更に俺の瞳を覗き込んでくる。
 ・・・やめだ、やめだ。
 たとえ、もしトレミーが恐怖の大魔王や、この世に破滅をもたらす破壊神だったとしても、トレミーはトレミーだ。それだけは間違いない。
 そのまま深い思考の霧に取り込まれそうになる頭をぶんぶんと振って、無理矢理に気持ちを振り切る。
「・・・ユークリッド様?」
「悪い、ちょっと考え事してた」
「もうっ、レイが朝ご飯出来たって呼んでるよ?」
 朝から元気いっぱいの声でトレミーがそう言う。
 ちなみに、『レイ』というのは俺の母、田中・レイチェル・玲奈のことだ。
 なんでも祖父の考えで日本名でも英名でも同じ呼び方で通じるようにしたんだそうだ。
 その伝統は受け継がれ、俺も田中・ユークリッド・勇というヘンテコな名前に相成っている。
「つーか、なんでメイド服着てんだ?」
 ようやく眠気が抜けてきた頭で改めて見てみれば、今のトレミーの格好はシンプルな黒のワンピースとその上から来ているフリフリの付いた可愛らしいエプロンという、どっからどう見ても完璧なメイド服だった。
「うん、これ着るとユークリッド様が喜ぶってノエルが言ってたんだもん。どう?嬉しい?」
 そりゃ、確かに嬉しくないと言ったらウソになる。
 もともと童顔のトレミーにメイドスタイルがとてもよく似合っていて、今のトレミーを見て可愛いと感じない男はどうかしていると言っても過言ではないだろう。
「それに『ユークリッド様』ってなんだよ」
「主人には様を付けないとってノエルが言ってたの。私、ユークリッド様の使い魔なんだもん」
 ノエルめ、余計なことを吹き込みやがって。絶対面白がって俺とトレミーをからかってるに違いない。
 だが、トレミーが俺の使い魔であるという事は事実だ。
 俺は昔トレミーに逢って、使い魔の契約を結んでいた。
 以前、意識を失ったトレミーを呼び起こすために憑依したとき、トレミーの意識の中で俺は幼い頃の光景を見た。
 俺がトレミーに『プトレマイオス』という本当の名前を付け、祖父の力を借りて〈ラプラスの書〉の元で契約を結んでいたのだ。
 あの後でもう一度開いた〈ラプラスの書〉に書かれていたあのサインは間違いなく自分の物だという記憶がいつの間にか蘇っていた。
 これはトレミーの意識の中にあった俺との共通の記憶が俺自身の中の記憶と反応して呼び起こされたのだ、と俺を助けてくれた魔術師、ノエルは言った。
 だが、それをいつどこで見たかというのは未だにはっきりとしない。
 『幼い頃』という朧気で曖昧な時期。結局それ以上は思い出すことが出来なかった。
「とにかく、変な誤解を招きかねないから、その『ユークリッド様』ってのは止めてくれ・・・」
「えーっ、なんか雰囲気出るのに~」
 なんの雰囲気だよ。
「じゃあ~・・・」
 心の中のツッコミをよそにトレミーは口元に人差し指を当てて少し考え込む。
 やがて何かひらめいたのか、その顔がぱっと笑顔になる。
「・・・ご主人様っ!」
 それはもっとやめてくれ。
 というか、第一にメイドというものはもっと粛々としていてだね・・・
 まぁ、キュートなフレンチメイドも嫌いじゃないんだけど。
「とにかく、『様』なんて付けなくてもいいし、『ご主人様』てのも無しでいいから。普通に今まで通りでお願いします」
「わかった。ユークリッド」
 トレミーとノエルがこの家に転がり込んでから早数日。
 先の戦闘や何やらが後を引き、しばらくは大人しくしていたトレミーもだんだんと調子を取り戻してきたらしく、日に日に起こし方が激しくなってきているような気がする。
 いつもは休日平日を問わずお節介に起しに来る幼馴染みのはるかも今は大祭の練習で忙しいらしく、ここ数日は来ていない。
 せっかく久しぶりに落ち着いた朝が迎えられると思ったのだが、残念ながらいつも以上に騒がしい朝を迎えるハメになってしまっていた。
 俺はこの数日の出来事をしみじみと反芻してみる。
 思えば本当に色々な出来事が身の回りで起き、今もなお進行中なのだ。
「なぁ、トレミー」
 俺はさも何でもない風にトレミーに声を掛ける。
「なに?」
「おまえと、アイツ・・・カルネアデスはどういう関係なんだ?」
 トレミーの生体人形を造ったのはカルネアデスとかいう謎の魔術師だ。
 ヤツは俺の持つ〈ラプラスの書〉を狙っていた。
 トレミーに霊的な干渉をかけて体を操り、強引に俺から〈ラプラスの書〉を奪おうとし、それに失敗すると自身が直接襲撃を掛けてきた。
 ノエルとトレミーの協力でなんとか〈ラプラスの書〉を奪われることは防いだが、もし隙を突かれるようにまた突然トレミーを操られるようなことになれば、今度こそ対応しきれずに〈ラプラスの書〉を奪われることにもなりかねない。
 トレミーを疑う訳ではないが、そのためにもヤツとの関係を明らかにしておく必要があるのだ。
「・・・私もよく分からないの」
 俺の問いかけにトレミーは僅かな沈黙の後でそう答える。
「私はいつのまにかどこか暗い所にいたの。そんなとき、アイツの声が聞こえたの。『おまえは何を望む?』って。だから、私は『もう一度ユークリッドに逢いたい』って言ったの」
 それが恐らく契約の誓いだったのだろう。
 ノエルによれば、トレミーは何らかの契約をカルネアデスと結んでいた痕跡があり、それによってカルネアデスはトレミーの意識に干渉し、その体を操ることが出来たのだという。
 もし、本当にトレミーがカルネアデスと契約を結んでいるのなら、それを解消しない限りトレミーはカルネアデスに追われる事になるし、関係を断ち切ることも出来ないだろう。
「その後、気がついたらこの体になってて、アイツの所に居たの。そのまましばらく一緒に暮らして、それからこの町にきたの」
 トレミーはまるで今の自分の姿を確認するように、その白く細い指先を見つめ、何かを思い出すようにゆっくりと目を閉じる。
「いいのか?このままじゃ、アイツを裏切ったことになるんだぞ?」
 トレミーは先の戦闘で俺に協力し、カルネアデスに立ち向かった。
 それは明確な反抗であり、それをあのカルネアデスが許すとは到底思えない。
「もう一度ユークリッドに逢わせてくれた事にはありがとうって思うの。でも、アイツはユークリッドを傷つけようとした。それはダメだから・・・」
 トレミーは何かに耐えるように目をきつく閉じ、ぎゅっとその手を握りしめる。
「だから、もう帰らない。私はユークリッドと一緒にいたい」
 俯いて逸らしていた視線を真っ直ぐ俺に向けて、トレミーは決心したようにそう言った。
「・・・そうか」
 トレミーは俺に逢いたい一心でここまで来たというのだ。
 俺はすっかりトレミーの事なんて忘れてしまっていたというのに。
 確かにカルネアデスは手強い。
 トレミーの生体人形を造ってしまえるほどの魔術を会得し、自身もかなりの戦闘能力を持っていることは直接戦って嫌というほど分かっている。
 そして、あの深く昏い、目。
 あの奥深くには決して触れてはいけないような何かがあるように思える。
 それでも。
 ヤツにはトレミーを渡してはいけない、トレミーを守ってやらなければならない、と俺は強く感じるのだった。
「ねぇ、ユークリッド・・・」
 思わず再び黙り込んでしまった俺に、トレミーは少しためらいがちに声を掛けてきた。
「どうした?」
「・・・わたし、ここにいてもいい?」
 トレミーの碧い瞳がゆらゆらと揺れていた。
 俺は勢いを付けて、むくりと起き上がる。
「にゃっ」
 突然起き上がった俺の反動でトレミーがバランスを崩し、シーソーのように後頭部からベッドに仰向けに倒れる。
 そのまま俺は無言でトレミーの癖っ毛な頭をくしゃくしゃとかき混ぜる。
 突然の事に最初はビクッと身を竦ませて驚いた仕草を見せたトレミーだったが、やがて気持ちよさそうに目を細めて「にゃぁ~」と甘えた声を上げる。
「・・・あたりまえだ。絶対にヤツになんか渡さない」
 俺は照れを隠すようにぼそりと呟く。
 それを逃さず聞き取ったトレミーの表情が一瞬の驚き後で、みるみるうちに笑顔に変わっていく。
「ユークリッド、大好きっ!」


 そのまま俺はトレミーと一緒に二階にある俺の部屋から一階のキッチンへと向かう。
 トントン、と軽快な音を立てて階段を降りるトレミーに続いて一階の廊下に出たとき、不意に世界がぐらりと歪んだ。
「うっ・・・」
 まるで目の前に薄い膜があるかのように視界が少し遠くに感じられ、気づけば右のこめかみの辺りに針で突かれたように鋭い痛みがある。
 が、それ以上は悪化することなく、数秒で何事もなかったようにその感覚はすうっと引いていった。
「大丈夫?」
 ようやくピントが合ってきた視界いっぱいにトレミーの顔があった。
 寝起きにあれだけ大きな声を鼓膜にブチ込まれたら頭の一つも痛くなりそうなものなのだが、当の本人はそのことには全く心当たりがないらしく、悪びれる様子もなくそう聞いてくる。
「ああ、ちょっと頭痛がな。大丈夫だ、もう収まった」
 それでもそのトレミーの不安そうな表情を見ると、不思議と心配を掛けまいと思ってしまうのだった。

「あら、ユウ。ようやく起きたのね」
 キッチンへと入ると朝食の支度をしていた母さんがこちらを振り向いてそう声を掛けてくる。
「トレミーちゃん、ゴメンね~こんなこと頼んじゃって」
「いーの、いーの。明日もわたしがユークリッド起こしてあげるんだから!」
 トレミーはぶんぶん、と頭を振った後で目を輝かせて母さんを見上げるようにそう宣言する。
「まぁ!」
 その仕草にぱぁっと目を潤ませた母さんが次の瞬間にがしっ、とトレミーを両腕で捕獲する。
「トレミーちゃんは本当にカワイイわねぇ~食べちゃいたいくらい!」
 母さんはしっかと抱きついたまま、満面の笑みでスリスリとトレミーに頬ずりをしている。
「レイ、くっすぐったいよ~」
 ちょっと恥ずかしそうにしながらも、トレミーはまんざらでもない様子で困ったような笑顔を浮かべていた。
 既に食卓にはもう一人の居候が席に着いていた。
 そのショートカットの女性は眠そうな顔でぼんやりと新聞を読みながらコーヒーをすすっている。
 彼女がノエル。魔術師だ。
 《ヘルメティカ》とかいう魔術師協会?か何かから派遣されてきたそうだ。
 一応そのことについても一通りの説明は受けていたが、トレミーの件と同様イマイチよく分からなかった。
 だが、ノエルの協力が無ければカルネアデスに対抗することは出来なかっただろう。
 あっという間に〈ラプラスの書〉を奪われて、その後はどうなっていたかは分からないが、少なくとも今こうやって呑気に朝食を摂ることは叶わなかっただろう。
 そういった意味では命の恩人でもあるし、彼女もかなりの実力を持った魔術師なのは確かだ。未だ自分の置かれている状況すらあまりよく分かっていない俺にとっては、頼ることの出来る数少ない人物の一人である。
「頼むから、あまりトレミーに余計なことを吹き込まないでくれよ」
 ただ、それはそれ、これはこれ、だ。俺は朝食をもそもそと食べつつ、隙を見てノエルにささやかな抗議をする。ただでさえ平穏からは遠く離れてしまった日常生活を誰かの趣味のためにさらに掻き回されるのは御免被りたい。
「いいじゃない、可愛いんだから」
 俺のささやかな抗議に全く耳を傾けることなく、そう返答したノエルが俺の隣でもぐもぐと朝食を採るトレミーをちらりと眺めて、満足そうに目を細める。
「本当に久しぶりね。ノエルとこうして話をするのも。もう十年ぐらいになるのかしら」
 そこへ母さんが自分の湯飲みを持って席に着く。
「そうね、そのくらいになるのかな・・・」
 その母さんの言葉にノエルがどこか遠くへと視線を送る。
「二人はどんな繋がりだったの?」
 俺は思わずそう聞いていた。
 驚いたことに、母さんとノエルは旧知の仲だったというのだ。
 俺が初めてノエルに会ったのはあのリサイクルショップが初めてだ。これは間違いない。
 つまり、その俺が知らないということは、こちらに越してくる前に母さんとノエルは出逢っていることになる。
 その時期は俺がトレミーと出逢ったときの『幼い頃』である可能性が高く、その当時の事を何か聞くことが出来れば、トレミーの記憶に触れたときのようにまた何か思い出せるかもしれないのだ。
「家が近所だったのよ」
 うーん、と記憶を巡らせた母さんに先回りするようにノエルが口を開く。
「そうだったかしら?」
「そうよ」
 その答えに疑問を持った母さんがノエルに聞き返すが、まるでその先を塞ぐようにすかさずノエルが断言する。
「ノエルがそういうなら、そうなのかな。私、こっちに越してくる前の記憶は曖昧なのよね~」
「昔の記憶なんてそんなものよ」
「でも、ちゃんとノエルのことは覚えてるのよ。ほら、いつだったかしら・・・」
 慌てたように母さんが更にうーんと考え始めるが、なかなか思い当たることは出来なさそうだった。
「そういうのは無理に思い出さない方がいいよ。きっと、もう忘れてしまったのよ」
 今度は少しだけ待ってから、ノエルはあまり抑揚のない声で宥めるように言う。
 その横顔が少しだけ寂しそうに感じられたのは気のせいだろうか。


 気がつけば、一学期も終業式まであと数日を残すまでになっていた。
 もう、すっかり季節は夏。
 今日もスカッと快晴な十時過ぎの太陽は正午の南中を目指して輝きを一段と増し、濃い緑色となった山の木々を力強く照りつけている。
「へぇ、へぇ、もう限界・・・」
 そんな中を延々30分も走らされて、俺はすでにグデグデだった。
 やっとの思いで最後の難関である何十段もある石段を登り終えて、俺は仰向けに倒れ込む。
 ジーワジーワというセミの大合唱がゴールであるこの山間の公園に降り注ぎ、厚く茂った木々の間から漏れた日射しが俺の頬をちらちらと照らす。
「だらしないわねぇ」
 一緒にスタートした後あっという間に見えなくなって、とっくの昔にこの公園に着いていたであろうノエルがやれやれといった風に声をかけてくる。
「仕方・・・ないだろ・・・元々運動なんて・・・やって・・・ないんだから・・・」
 いまだ息が落ち着かない俺は途切れ途切れにそう返すのがやっとだった。
 あの魔術師、カルネアデスは俺の持つ〈ラプラスの書〉を狙っている。
 今のところは奴の襲撃はない。だが、何もないからといって奴が諦めたとは考えられない。むしろ、襲撃が失敗に終わったため、より慎重確実に俺の〈ラプラスの書〉を狙ってくるはずだ。今も周到な作戦を練り、着々と準備を進めているのだろう。
 そのために、今もこうしてノエルがすぐ傍でいつでも対応できる体勢を敷いているのだが、なにより俺自身が実力を付けて少しでもカルネアデスに対抗できるようになれば言うことは無い。
 そのことをノエルに相談したら彼女も大賛成で、こうやって時間を見つけては基礎トレーニングや魔術の基礎などを教えてもらっているのだった。
 未だ仰向けに倒れたまま起き上がれずにいる俺をよそに、ノエルは懐から携帯端末を取り出すと、そのカメラ越しに俺の体を見ていく。
「ふーん。一応、人並み以上の霊力はあるみたいね」
 その携帯端末はノエルの〈ラプラスの書〉なんだそうで、それを使えばある程度エーテルを可視化してその流れを見ることが出来るらしい。
「あなた、死にかけたことはある?」
 俺の体を頭から足下までその〈ラプラスの書〉を通して一通り見たノエルは興味深そうに頷いてから、そう質問を投げかけてきた。
「ああ、一度川で溺れたことがある」
 あれはいつだったか。たしか小学生の頃、幼馴染みのはるかと一緒にツチノコを探しに行った時、はるかが足を滑らせて川へ落ち、それを助けるために俺も飛び込んだのだが、川の水は前日までの雨で増水していて結局二人とも流されてしまったのだった。
「なるほど。恐らくそのとき『命の琴線』に触れたんでしょうね」
 そう言われてみれば自分が霊感を持ち始めたのはあの後だ。
「『命の琴線』。それは、私たちの中に宿る何千、何万年という生命の記憶。人、というよりすべての生命は極限状態に陥ったとき、自分の中にあるあらゆる手段を模索するの。それが自分の中に眠っている力を引き出したんでしょうね」
 つまり、早い話が火事場の馬鹿力のようなものか。
 確かに俺はあの荒れ狂う濁流の中で自分の声を聞いたような気がした。
 半ば諦めかけていた俺はその声で冷静さを取り戻し、はるかを助けることが出来た。
 あれがそうだったのだろうか。
「さて、前置きはこのくらいにして、そろそろ始めるわよ?」
 その声に俺は起き上がると、林間を渡る爽やかな風がすうっと俺を撫でる。
 汗で濡れた肌にその風はひんやりと冷たく、俺はまたノエルに続いて走り出すのだった。

 そのあとは緩やかなハイキングコースを二人でジョギングし、途中で腕立てなど軽いウェイトトレーニングと何度かの休憩を織り交ぜながらコースを一周し、元のこの公園に戻ってきた。
「し、死ぬ・・・」
 もうその頃には体中から悲鳴が上がり、俺は公園に戻って来るなり頭から水道の水を浴びて、また大の字に倒れ込んでいた。
「まったく、だらしないわねぇ」
 そんな俺を見てノエルが再び呆れ顔でそう言う。
 いやいや、あれだけの運動をしておいてケロリとしてるほうがおかしいって。
 肺は少しでも多くの酸素を得ようと、胸いっぱいに空気を吸い込み、吐き出す。
 体中の汗腺から汗が止めどなく噴き出し、心臓が猛スピードで血液を循環させている。
 この命を回すサイクル、それがエーテルの循環なのだという。
 ノエルによれば、これを意図的に自分自身で回すことにより、普段より楽に、より強力に自分の体を動かすことが出来るらしい。
 今のところ、俺にはそんなこと出来る気がしないが。
「なあ、本当は俺の母さんとどういう関係なんだ?」
 ようやく体が落ち着いてきたところで、俺は傍らにいるノエルに声を掛ける。
 やはり、俺は朝のノエルと母さんの会話に引っかかるものを感じていた。
 もしかしたら、俺と母さんの記憶が何者かの手によって封じられているのかもしれない。
 誰がなんのためにそんなことをする必要があったのかは定かではないが、自分と母さん、その両方の共通する時期の記憶がないというのは何か怪しい物がある気がしてならない。
 十年前。確か今の家に引っ越してきたのはそのくらいの時期だったと思う。
 きっと、そのとき何かがあったのだ。
 今の家に引っ越してくる必要があった何かが。
「・・・悪いけど、今はまだ教えることはできないの」
 ちらり、とあたりを伺った後でノエルはそう言った。
「でも、いつか本当の事を知ることがくるわ。あなたにはその必要がある」
「本当の事?」
「――はい、休憩はおしまい」
 聞き返そうとした俺の声を強引に遮って、ノエルは立ち上がる。
「トレミー!」
 そのノエルの声に近くの砂場で遊んでいたトレミーがこちらに振り向く。
 トレミーも面白がってこのトレーニングに付いて来ていたが、そもそもトレミーの体は生体人形、しかも魔術的に各部が強化された戦闘人形と呼ばれるものであり、これ以上トレーニングの必要があるはずもなく途中からはすっかり飽きて一人で遊んでいたのだった。
「トレミー、ユウと肉弾戦して勝ったら、ユウがご褒美になんでも言うこと聞いてくれるって」
「本当!?」
 めくるめくご褒美を期待したのだろう、トレミーの顔がどんどんと破顔していく。
「ちょ、待て。いくら何でもそれは無理だろ」
 ちょっと前の水泳大会やつい最近カルネアデスと戦ったときにトレミーの実力は嫌というほど分かっている。
 戦闘人形の時点でもう敵うはずがないのだが、更にトレミーはその世界中から流れ込んでくるエーテルを操り、自身の運動能力を爆発的に高めることが出来るのだ。
 それはもう人間というレベルを遥かに超えている。
「いや、本当にシャレになってない。俺はまだ死にたくない!」
「今更イチからやってる暇はないの。実戦経験を積むのが一番なのよ。はい、スタート」
 ノエルは俺の抗議に一切耳を傾けることなく、さらにそれ以上の反論の隙を与えないように続けて訓練の開始を宣言する。
「マジかよ!?」
 不意を突かれた俺が慌ててトレミーのほうに視線を戻すと、既にトレミーは俺めがけて一直線に向かって来ていた。
「ご・ほ・う・び!」
 軽く20メートルはあった距離があっという間に縮まり、もうすぐ前にはトレミーの体があった。
 俺はどうすることも出来ずに、恐怖心に任せるまま体を縮こませてなんとかガードの姿勢を取る。
 ダンッ、と必殺の一撃を放つために踏み込んだ右足が鋭い音を立てる。
 そのまま相手の懐に潜り込み、立ち上がるようにしてトレミーの拳が繰り出される。
 トレミーが本気で筋力を強化していたらガードなんて全くの無意味で、交差した腕ごとポッキリと折れるに違いないが、そこはトレミーが威力を調節してくれていることを祈るしかない。
「・・・っ!」
 俺は目をギュっと瞑り、やがて来る苦痛を待ち構える。
 が、その瞬間はなかなか訪れない。
「・・・」
 一秒、二秒、と時間が過ぎる。
 そのタイムラグに疑問を感じた時、ドサッという音がすぐ傍で聞こえた。
 俺は目を開け、恐る恐る腕の間からその音の方を伺う。
「トレミー・・・?」
 そこにはうつぶせに倒れたまま、ピクリとも動かないトレミーの姿があった。
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No title

今回も拝読しました~

etaさん

更に出来るようになりましたなぁ(と某セリフ風に)

 グイグイ引きこまれましたよ、前回より筆力がかなり上がっています。
 読みやすい上に市販のライトノベルと遜色なかったように感じました。
 挿絵も流石の一言。
 トレミーがどうなったのか凄ーく気になります。
 

コメントありがとうございます!

いつもありがとうございます~

いやいや、さすがにそれは言い過ぎですw
それはともかく、気に入って頂けたようでなによりです。
そう言って頂けるだけで頑張って書いた甲斐がありました。

なにかとよく倒れるトレミーです。
彼女の体の構造が影響しているみたいですね。

次回はお待ちかねTS回の予定です。
気長にお待ちして頂ければ幸いです。

No title

美少女メイドな使い魔が朝起こしてくれる生活、プライスレス。
いろいろな事情が複雑にからみあって今の事態を作り出しているようですね。
トレミーちゃんやユウくんにも体の変調が表れているようで、とても心配です。
漫画ははるかちゃん視点で、周囲にモヤモヤさせられっぱなしの彼女の様子をニヤニヤしながら読ませていただきました。がんばれはるかちゃん!
あとやっぱりユウくんはうらやましすぎます(笑)

コメントありがとうございます!

はわわ、漫画の方も見ていただけるなんて・・・
稚拙極まりない出来てお恥ずかしい限りです。
漫画と文章では同じシーンでも違う見せ方が出来て、描いてて面白かったです。
が、この後さらにペン入れ・仕上げがあると思うと・・・本当に世の漫画家さんは凄い。

本編ではユークリッドのリア充化が進んで、書いてて後ろから刺したくなったりもしますが
そこは冷静に彼のオイシイ体験を追体験していただければ幸いです。
しかし、やっぱり詰め込みすぎたなぁと今更ながらに反省しています・・・
プロフィール

eta

Author:eta
まあ、適当に。

当ブログはTS(性転換)及び性的描写を取り扱います。
18歳未満の方、興味の無い方の閲覧はご遠慮下さい。

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