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ラプラスの書 §2-8

さてさて§2もいよいよクライマックスです。
今頃になって色々設定が出て来ますが
設定厨の悪い癖ですので、基本「へぇ」で聞き流して下されば幸いです・・・

他がほぼ一ヶ月まるっと更新無しですねぇ。
なんか他にもコンテンツを増やしたい気もしますが・・・
だれか時間とやる気を下さい。あと才能も。

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「深淵のプトレマイオス」 

  【8】
 ノエルが向かったのは公園から少し離れたアパートの一室だった。
 そのアパートはちょっと昔にあった雇用対策の大規模林業計画の時にその就労者目当てで地元の不動産屋が建てた物だった。
 だが、意外に経済が素早く持ち直したために事業が縮小され、林業区域外となってしまったこのアパートに人が入ることは無く、ほとんどの部屋が空室のまま放置されていた。
 どうやらその2階の一室をノエルは根城にしているらしい。
「ささ、上がって上がって」
 ノエルはそう言うと、そそくさと部屋の奥へと向かっていく。
 それに続いて上がってみれば、そこは部屋の片隅に革の鞄が置かれている以外は必要最低限の物しかない殺伐とした部屋だった。
「その子はそのあたりに寝かせておいて。とりあえず結界張るから手伝って」
 そう言うが早いか、ノエルは鞄を開けて結界を張るのに必要な道具を取り出すと、テキパキと作業を始めた。
 俺はトレミーをベッドに寝かせてからその作業を手伝う。
 ノエルの持っていた物は初めて目にする物ばかりだったが、そのどれもがかなりの霊的性質を持っているらしいことだけは分かった。
「さてと、とりあえずこれでしばらくは大丈夫かな。と言っても、この辺りまで来てるのは分かってるだろうから、見つかるのは時間の問題でしょうけど」
 一通りの施術を終え、一息をついたノエルが改めてこちらに向き直る。
「そうそう、自己紹介がまだだったわね」
 思い出したようにノエルはそう言って、右手を差し出してくる。
「私はノエル。ノエル・エタンダールよ」
「俺は―」
「田中・ユークリッド・勇。でしょ?」
 俺の声を遮ってノエルがそう言った。
「私たちの間じゃ、あなたはちょとした有名人なのよ」
 驚きのあまり呆然と差し出されたままになっていた俺の手をノエルはぐっと握って、フフ、と悪戯っぽい笑みを浮かべる。
 恐らく、このノエルという人も魔術師なのだろう。
 未だその正確な正体は掴めずにはいるが、どうやら敵ではないらしい。事実、ノエルの助けがなければトレミーに憑依していた魔術師に対抗することは出来なかった。
 そして何より、俺自身があのとき交わした視線の中に何か信じるに足る物を感じていたのだった。
「あら、あなたも怪我してるじゃない」
 そう言われてノエルの視線の先、俺のこめかみの辺りにに手をやると、ざらりとした感触があって確かに血の跡がついていた。
 恐らく先ほどの戦闘の時にトレミーに憑依していた何物かが放ったクウォーツがかすめたのだろう。幸いなことに傷は深くはなく、既に血は止まっているようだった。
「おかしいな、確かに躱したと思ったんだけど・・・」
「きっとクウォーツを書き換えて、ある程度は目標を追尾するようにしてあったんでしょうね」
 あいつがクウォーツを手にしていた時間は数秒と無かったはず。しかし、あいつはその数秒の間にクウォーツに指向性を持たせる魔術を仕込んだというのだ。やはり並大抵の魔術師ではないとまざまざと感じさせられた。
「あいつは一体何者なんですか?」
 今改めて振り返れば、どうやらノエルはトレミーに憑依したのが何者か知っている素振りを見せていたように思える。
「・・・カルネアデス。それがヤツの名前よ」
 逡巡を思わせる少しの沈黙の後で、ノエルは小さく言った。
「カルネアデス・・・」
 俺はその名前を口の中でもう一度噛みしめるように呟く。
 トレミーの姿をしていても全く別の物に感じられたあの冷徹な目。
 そしてヤツは〈ラプラスの書〉を狙っていた。
「どうしましょうね、どこから話したらいいものか・・・」
 ふう、と一息を着いたノエルはどしっと床に座り込んで、のぞき込むようにこちらに視線を向けてくる。
 その深いブルーの瞳がじっと俺の視線を捕まえる。
「『田中・ユークリッド・勇の所持する〈ラプラスの書〉および〈深淵の猫〉の監視と保護』それが私の今回の任務よ」
 やがて、意を決したようにノエルはそう言った。
「〈深淵の猫〉?」
 ノエルの言葉の中の初めて耳にする言葉に俺は思わずそう聞き返す。
「そこの子のことよ」
 ノエルはちらと傍らに横たわるトレミーに視線を向け、俺もそれに倣う。
「〈深淵の猫〉。アビス・キャット。マサク・マブデイル・・・宗派や機関によって呼び名は様々だけど、多くの組織がその存在を提唱し、実際に遭遇している」
 自分の中の知識をたどるようにノエルはそう呟くように続けた。
「なんで猫なのかは私も知らないから、とりあえず置いておいて。問題は『深淵』のほう」
「『深淵』?」
「文字通り、深い淵(ふち)の事よ。まあ、この場合は霊的な意味でだけどね」
 ノエルは説明する言葉を探すように少し考えながら話を続ける。
「世界にぽっかり穴が開いちゃった感じだと思ってもらうとわかりやすいかな。まあ、『お風呂の栓』のようなモノね。水を張ったお風呂の栓を抜くとどうなっちゃうと思う?」
 ノエルは試すような視線をこちらに向けて、そう問いかけてくる。
「そこから水が抜けていってしまうと思いますけど・・・」
「そう。穴を埋めようと周りの水が集まってくる。それと同じように世界も霊力、私たちは『エーテル』と呼んでいるんだけど、それが穴を埋めようと集まってくる。でも、深淵はものすごく深くて、ちょっとやそっとじゃ埋まることがない。結局、ずっとそこにはエーテルが流れ込むことになって、まるでその穴の形があるかのように存在する。それが彼女ってワケ」
 俺はもう一度トレミーに視線を移す。
「ちょっと難しい話だったわね」
 俺はノエルの話した事を半分も消費できていなかった。
 先ほどから変わることなくそこに横たわっているトレミーの姿はどうやったって、そんな『深淵の猫』なんていう現実味のない物には思えない。
「ちなみに、この外見は関係無いわ。これは『生体人形』みたいだから」
 そんな俺の感情を視線から読み取ったのか、ノエルがそう付け加える。
 その言葉を俺は一度目にしたことがあった。
「『生体人形(ホムンクルス)』。魔術体系を使用して作られた人工生命・・・・」
「あら、よく知ってるわね」
「〈ラプラスの書〉に載ってたんだ。まさか本当に・・・」
 確かに〈ラプラスの書〉には載っていたものの、そのあまりの内容にまさか現実に存在するなどと到底信じることが出来るわけもなかったが、つい先ほど同様にあり得ないと思っていた『高度魔術変換』を俺はこの目で見ている。
 改めて思えば憑依や簡単な魔術も一般的に考えればあり得ないことなのだ。自分の常識に当てはめて都合良く生体人形だけを否定するということは出来ない事だった。
「勉強熱心だと助かるわ。この子はさらに制作段階で骨格やエーテル節をいじった『戦闘人形(アサルトドール)』みたいね」
 察するにノエルはそういった世界に身を置き対処してきたのだろう、当然のごとくそう言ってのける。
 今も変わらずベッドの上に横たわるトレミー。
 その洗練された容姿はそう言われてしまえば、どこか作り物のように感じられる。
「トレミーは・・・」
 人間ではない。
 あれだけの人間離れした能力を目の当たりしている事を整合すれば、確かにその答えも受け入れる事は難しくないだろう。
 だが、その事実は俺にとって衝撃的だった。
「・・・」
 つい昨日まで一緒に学校に通っていたトレミー。
 確かにその破天荒な性格や人間離れした能力に驚きはしたものの、楽しそうに笑う仕草やはるかと張り合っているときの怒った表情は人間以外のものだとは到底考えられなかった。
「さて、おしゃべりはこのくらいにして、と」
 そこで言葉を切ったノエルは立ち上がって俺の方を見る。
「まずはこの子を何とかしなきゃね。あなたも協力してくれるんでしょ?」
「もちろん」
「じゃ、下の方よろしくね」
「下の方?」
 一瞬その言葉の意味を掴み損ねて、固まっている俺をよそにノエルはトレミーのセーラー服のリボンをほどき、脇のジッパーを上げていく。
「って、なに脱がせてんだ!」
「何でって、着替えさせるのよ」
 あっけらかんとそう言ったノエルはすでにセーラー服をめくっていた。
 トレミーの白いおなかを目にした俺は思わず戸口の方を向く。
「あらあら、紳士なのね。あなたくらいの年頃の男の子だったら喜んで手伝ってくれると思ったんだけど」
 ニヤニヤと笑いながらノエルはそう言い、剥ぎ取ったセーラ服を脇に畳んで置いたようだった。
「うわー、ホントに綺麗ね。細かいところまでしっかり作り込んであるわ」
 時折聞こえてくる衣擦れの音にドキドキしながら待っていると、ノエルのそんな声が聞こえてきて余計に想像が広がってしまう。
 音だけではっきりとは分からないが、どうやらノエルは鞄から着替えを取り出して着替えさせているようだった。
「いいわよ」
 そのノエルの声に振り向く。
「ちょ!」
 俺は思わずそう声を上げられずにはいられなかった。
「なんでメイド服着せてんだ!」
「やーね、そんなんじゃないわよ、これは真夜中のローブ。闇の中でしか成長しない夜綿で作られたローブよ。これで霊的な干渉をある程度防げるのよ。ちなみに、これもそう」
 ノエルはそう言って着ている黒い薄手のジャケットを引っ張ってみせる。
「まあ、エプロンは私の趣味だけどね」
 確かに下に来ている服はシックなワンピースと言っても、まあ差し支えないだろう。
 だが、そんなフリフリエプロン着せたら、まるっきりメイドスタイルですからっ!
「しっかし、カワイイ顔してるわね・・・記念に一枚」
 俺の心の中の渾身のツッコミをよそに、ノエルはおもむろに取り出した携帯端末でトレミーの寝顔を一枚といわず何十枚も激写していた。
「さて、私のコレクションも増えたことだし、そろそろ仕事に移るとしますか」
 ひとしきり写真を撮り終えて満足したらしいノエルが急に真剣な表情になったかと思うと、持っていた携帯端末のタッチディスプレイに紋章を入力していく。
 それに反応した携帯端末のディスプレイが淡く光り出す。
「それは・・・?」
 俺は思わずそう問いかけていた。なぜなら、淡い光りを放っているその携帯端末は明らかに霊力を帯びていたのだ。
「ああ、コレ?私の〈ラプラスの書〉よ」
 携帯端末に付いているカメラでトレミーの全身をくまなく撮るようにしながら、ノエルは当たり前のようにそう言った。
「いいでしょ?最新機種なのよ」
 更にノエルは自慢げにそう言いつつ、携帯端末の画面を俺に向ける。
 画面に映し出されたカメラの映像はまるでレントゲン写真のようにトレミーの輪郭だけを黒く映し出していた。
「これは・・・」
 驚いたようにぼそりと呟いたノエルの声に改めてノエルの携帯端末を覗き込む。
 カメラで映されたトレミーのシルエットの胸の位置辺りに、なにか輝く石のような物が映し出されていた。
「・・・翠玉板(エメラルドタブレット)」
 その言い様からもその輝く石が特殊なものであることを伺わせた。
「・・・なるほど。空間方解石であるエメラルドタブレットで人形内の空間を副屈折させて、発生した異常空間に〈深淵の猫〉を入れたのね。そうすることで、〈深淵の猫〉が発生させる莫大なエーテルを安全に利用できるし、〈深淵の猫〉の存在も誤魔化そうって寸法ね」
 ノエルの持つ携帯端末型の〈ラプラスの書〉は恐らくトレミーの体内のエーテルの循環を解析できるのであろう、画面にはその石を中心として糸のような物が全身に張り巡らされている様子が映し出されていた。恐らくこれがエーテルの流れを制御する回路なのだ。
「しかし、スゴイ技術ね。さすが次期三賢人筆頭と言われてただけあるわ・・・」
 解析機能を終了させたのだろう、光りを失った携帯端末を懐にしまったノエルが感心したようにそう呟く。
「トレミーは・・・?」
 俺は溜まらずそう聞いていた。
「〈深淵の猫〉と生体人形の接続が上手くいってないみたいね。なんか急激に霊力の低下があったのかしら?」
 その言葉に真っ先にあの水泳大会での出来事が思い起こされる。
「・・・俺が霊力を遮断する腕輪を渡してたんです」
 俺が苦々しくそう言うと、ノエルは更に納得した様子だった。
「ああ、さっきも使っていたヤツね。なるほど、あれは私があのお店に来たとき買ってたパワーストーンを使ってたのね」
 そういえばノエルはあのリサイクルショップでパワーストーンを買ったときに来ていたのだった。俺たちが帰った後でそのことを店主から聞いたのだろう。
「やはり、俺が作った腕輪が原因なんですか?」
「うーん、そうみたいね。クウォーツが発動した拍子にどっかの回路がリセットされちゃったんでしょうね」
「そうですか・・・」
「まぁ、店主のヤツが祭具に使うような相当霊力の高いクウォーツを渡してたみたいだから、ある意味仕方ないわよ。それに、あの腕輪のおかげでさっきはカルネアデスの意識を遮断できたんだから」
 ノエルは俺の気持ちを汲んでくれたらしく最後にそう付け加えた。
「大丈夫よ、これからなんとかするんだから。お姉さんに任せなさい」
 そう言って少し胸を張るようにしたノエルは頼もしい笑顔を見せる。
 確かにノエルが言うように今はトレミーの意識を取り戻すことが先決だ。
「カルネアデスとかいうヤツはどうなったんですか?まだトレミーの中に憑依してるんですか」
「それはないわ。今回、ヤツは生体人形に憑依していないのよ。事前に構築してあった霊的回線でどっかから遠隔操作していたみたいね。ほら、途中で同調云々言ってたでしょ?」
「そういえばそんな事いってたような・・・」
「霊的回線を通じて直接生体人形を制御して動かしてたってことよ。逆に、今回は霊的回路による遠隔操作だったから何とかなったのよ。直接擬似信号的な霊力を打ち込んで、一時的に受信部をショートさせて接続を切ってやることで、こうして無力化出来たんだし」
 詳しい部分までは分からなかったが、ノエルが言っていた勝機とはこのことなのだろう。
「まあ、そのうち受信部は復帰するでしょうから、単なる時間稼ぎにしかならないんだけどね」
 そういってノエルは腕時計で時間を確認する。
「さて、これからが本番よ。ユークリッド、あなた幽体離脱してこの子の中に入りなさい」
「は?」
「多分、彼女の意識が深淵の方に引っ込んでしまって、回路側がトレミーの意識を見つけられずにいるの。だから、外から入ってトレミーの意識を見つければ自然と回路が構築されるはずよ」
 そう当たり前のようにいってのけるノエルだったが、ふと俺の中で引っかかることがあった。
「ちょっと待てください、なんで俺が幽体離脱出来ること知ってるんです?」
「ちゃ~んと調査済みよ。あなたが霞野神社の子に憑依していろいろお楽しみなのもね」
「なっ!」
「しょうがないでしょ?さっきも言ったけど私の任務は『監視と保護』なの」
 そう言ってノエルはあの携帯端末をひらひらとさせてから、ちょいちょいっと携帯端末のタッチディスプレイを操作して画面をこちらに向ける。
 あの携帯端末では霊体を捉えることが出来るのだろう、画面に映し出されていた動画には渡り廊下を歩くはるかの中に俺が入る所がバッチリと撮られていた。
「あの子がこれを見たらなんて言うかしらね~」
「なっ・・・」
「ウソウソ、冗談よ。まさかそんなことするはず無いでしょ?」
 俺の驚いた顔に満足したのか、悪戯っぽく笑ったノエルが携帯端末の画面を閉じる。
「でも、これはあなたの方が適任なのよ。君の声の方があの子には届きやすいはずだし」
「憑依するのは分かったんだけど、その先はどうすれば?」
「さあ?それはやってみないと分からないわ。私の見立てが間違いなければ、何とかなるはずよ・・・たぶん」
 最後のたぶんというのが少々気になるが、トレミーの解析をしたノエルがそう言うのだから、今はそれを信じるしかない。
「ま、強いていえば名前を呼んであげること、かな?とにかく彼女の魂に触れて、呼び起こすのよ」
 俺の疑うような視線に慌てたようにノエルがそう付け加える。
「どのみち、今は詳しく解析してる時間も設備も無いんだし。『成せば成る』よ。ほら、さっさと幽体離脱する」
 とにかく今はトレミーを助ける方法はそれしかないらしい。
 それが俺に出来ることならば、今はやるしかない。
 俺は持ってきていた『死者のオイル』で額と胸に紋章を描き、そのまま床に横たわる。
 心を落ち着かせて、言霊を紡いでいく。
「気高き魂よ。
 肉体に繋がれし鎖を解き、
 闇に溶け、自由を得ん。
 我は開く、魂の扉!」
 肉体から抜け出て霊体となった俺はさっきまでいたアパートの室内を見下ろすようなイメージを感じる。
 そこにチーン、という鈴のような音が響いてきた。
(・・・!)
 来る途中に張っておいた一定以上の霊力を持った者が通ると反応する仕掛けが何かを感知したのだ。
 ノエルもそれを感じたらしい、その方角を見つめたまま、何かを探るようにしていた。
「どうやら、おいでななさったようね・・・」
 そう覚悟するようにノエルがそう呟く。
(ヤツなのか?)
 俺は確認するようにノエルにそう魂を振るわせて意志を飛ばす。
「いいから、早くっ!」
 そのノエルの声に事態の緊急性を悟った俺は急いで隣に眠るトレミーの中へと入っていった。
 
 
 そこは真っ暗だった。
(トレミーっ!どこだ、どこにいるっ!)
 魂全体を思いっきり叫ぶように振るわせるが、それも虚しく飲み込まれてしまう。
 光なんてどこにもない、ただ闇が覆うだけの世界。
 深い深い、暗い暗い、闇。
 
 でも、きっとここには来たことがある。 
 そう、初めてキミと出逢った時だ。

 その夜、僕は一人で泣いていた。
 
 大好きなネコが死んじゃったんだ。
 拾ってきたばっかりで、まだ名前もつけてあげてなかったのに。
 生まれたばかりで捨てられて、真っ黒で、ちっちゃくて。
 お父さんとおじいちゃんに観てもらったけど、もう凄く弱っていたからもうダメだろうって言われてたんだ。
 それでも僕はなんとか出来ないかってずっと一緒に居た。
 僕が拾ってきたときも、そのネコはずっと寂しそうに鳴いていたんだ。
 誰かいないの?僕はひとりぼっちなの?って。そう聞こえたんだ。
 でも、その声がだんだん小さく、弱くなって。
 そして、途切れた。
 僕は悲しくて、悲しくて、ずっと泣いていたんだ。
 
 もうどのくらい泣いていたんだろう。
 いつのまにか寝てしまった僕が目を覚ますと、世界が真っ暗になってたんだ。
 明かりをつけているはずなのに、家の中も真っ暗で、誰も居なくなってしまった。
 気がつけばお父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんもいなくなってた。 世界は本当に真っ暗で、輪郭がすべて無くなってしまうんじゃないかと思った。
 机も、床も、大きな暖炉だって、そこにあるのに、何もないみたいに見えないんだ。
  誰かが僕を呼ぶ声が聞こえたんだ。
 その声はとても寂しそうだった。
 孤独で、か細くて、でもこの何もない澄んだ暗闇の中では良く聞こえたんだ。
 
 そこに、キミはいたんだ。
 その真っ暗な闇がすべて吸い込まれてしまうほどに、一段と暗く深い闇。
 それがキミだった。
 僕は手を差し出して、そっと頭を撫でたんだ。
 一人じゃないよ、僕が居るよ、って。
 そしたら、キミは「ニャー」って嬉しそうに鳴いたんだ。
 みんないなくなってしまったけれど、その声を聞いていたらいつの間にか不思議と寂しくなくなっていたんだ。
 一人じゃ不安で、孤独で、世界はとても曖昧だった。
 でも、こんな暗闇の中だって、誰かがいるなら。
 僕がいて、キミがいて、二人がそこにあるなら。
 
 ――きっと世界は確実なものになる。
 
 
 その思い出は闇の中に一つの輝きを灯す。
 本当に小さく、この真っ暗な闇の中ではすぐに埋もれてしまうような、微かな光。
 でも、決して消えることはない。
 とても大切な思い出。


「ユー、その猫の名前は決めたのか?」
「うん。この前おじいちゃんが教えてくれた、星の名前をつけた人といっしょにしたんだ」
「ああ、そんなこと話したかな」
「この子は真っ黒だから夜に迷子になっちゃうかもしれないって思ったんだ。もし迷子になっても星を見つけられるように、って思ったの」
「そうか、そうか。うん、それはいい名前だ」
「でしょ?」
「よし。じゃあ、もしいつか二人が迷子になってもいいように、ワシがおまじないをしてあげよう」
「おじいちゃん、その本は?」
「ワシの大事な宝物だ。ユーが大きくなったらあげるよ」
「本当?」
「もちろん本当だとも。ただし、それまで良い子にしておったらな」
「僕、良い子にしてるよ!」
「よしよし。ユー、もう自分の名前は書けるな?」
「うん、このまえお父さんに教えてもらったもん」
「じゃあ、ここにおまえの名前を書いて。そっちに、その子の手を置いて」
「わぁ、凄い!本が光ったよ!」
「よし、これでおまえ達はずっと友達だ。もし、いつか離れ離れになっても、きっといつかまた逢える。二人ともお互いのことを忘れるんじゃないぞ?」
「うん!」


 暗闇の中に、また一つ小さく光が見えた。
 今にも消えそうに瞬く光。
 そのひとつひとつが懐かしい。
 それはまるで夜空に光る星の様に見える。
 トレミーは自分で見つけた星空をちゃんと覚えていたんだな。
 俺はいつの間にか忘れてしまったというのに。

 ぱぁーっ、と俺の魂の中で何かが広がっていく。
 まるで春の花が一斉に咲くように、俺の中に眠っていた記憶がいっせいに呼び起こされる。
 その一つ一つが小さく輝きながら暗い空に上がっていく。

 いつか、一緒に寝てしまった暖炉の前。
 いつか、一緒に眺めた真っ赤に燃える夕日。
 いつか、一緒に見上げた満天の星空。

 小さく、ゆっくりと、だが確かに瞬く星々。
 それを抱きしめるように優しく包む真っ暗な闇。

 いつの間にか空は星で埋め尽くされていた。

 この満天の星空を見上げて、俺の中に何かが満ちあふれていくのを感じる。
 それは、今まで自分でも気づかないうちにぽっかりと空いていた穴がゆっくりと埋まっていくような感覚。
 自分の手足に神経が通っていくように、俺の意識がこの星空に広がっていく。

「我はユークリッド」

 自然と口から言葉が溢れる。
 
「我らは古の盟友。
 我らは永遠の兄弟」

 ゆっくりと、この闇に語りかけるように、俺は言霊を紡いでいく。

「彼の者の名は――」

 ようやく思い出した。
 なぜ今まで忘れていたんだろう。
 ずっと大好きで、大切だった名前。

「――『プトレマイオス』」
 
 その名を呼んだとき、喜びに打ち震えるように一段と強く星々が煌めいた。

「その深き闇に眠りし契約を
 今再び、ここに示せ!」

 俺の意識の中から光りが溢れ出す。
 光りが闇と解け合うようにゆっくりと視界が白く覆われていく。
(ユークリッド、来てくれたんだ!)
 その光りの中でトレミーの意識を感じた。声が聞こえる。
(わたし、待ってた。必ず来てくれるって信じてた)
 
 僕とキミは今、ここにいる。


「そろそろ潮時だと思うが?ここらで退くのが賢明な判断だ」
「悪いわね、今日はとことんやりたい気分なのよ」
「・・・そうか。残念だ」
 再び開けた視界。
「アビス・・!」
 そこには驚きの表情を浮かべたカルネアデスの姿があった。
 少し痩せこけたように思えるが、その精悍な顔つき、そして何より深い藍色の瞳が放つ何者も押し伏せるような眼光は未だ鋭さを失っていないようだった。
「待たせたなっ!」

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 対峙するカルネアデスとノエルに向かい、トレミーの凛とした声が響く。
 低くなった身長、ひらひらと舞うスカートがスースーする。
 俺は今、トレミーになっていた。
「ちっ、さすがはといったところか・・・!」
 こちらに気づいたカルネアデスが苦々しくそう呟く。
「遅いわよ。危うく殺される所だったじゃない」
 ちら、とこちらを振り返ったノエルがニヤリと嬉しそうに微笑む。
「そいつは私のものだ。今、アビスを失うわけにはいかんのだ」
 そう忌々しく俺を睨み付けるカルネアデス。
 その視線に憶することなく真っ直ぐに受け止め、見つめ返す。
 心の底から沸き上がってくる力を感じる。
 俺の中に確かにトレミーを感じる。
(トレミー、俺に力を貸してくれ)
(うん!)
 トレミーの体の奥底に向かい、世界中から止めどなく注ぎ込まれるエーテル。
 キーン、という耳鳴りのような音と共に体中を駆け巡るエーテルが俺の右手に収束していく。
(やっちゃえ、ユークリッド!)
 まるで引き絞った弓を放つように、エーテルを開放する。
 その瞬間、周囲にあった大量の空気が渦巻くように一点に集中していき、周りの空気を巻き込みながら目前のカルネアデスめがけて一直線に突進していく。
「ッ!」
 ズガァァン! 
 カルネアデスもかろうじて自分の前に防御壁を張るが、空気の弾丸が触れた瞬間にそれが凄まじい大爆発を起こした。
 そのあまりの風圧にアパートの壁はいとも簡単に吹き飛び、瓦礫と化したアパートの破片がバラバラと裏手にあった資材置き場に散乱する。
「これは・・・」
 俺は今や自分のものとなったトレミーの白く細い指を眺めつつ、自分が放った魔術の威力に驚愕していた。
 迸るエーテルはトレミーの魔術によって直接周囲の空気に影響し、爆発的に高まった圧力を持った空気の塊が怒濤のようにカルネアデスへ向けられたのだ。
「ちょっと、場所を考えなさいよ!下手をしたらこのアパートごと崩れてたわよ」
 崩れかかってきたアパートの残骸の下から這い出してきたノエルが、不服そうにそう言う。
 その肩には抜け殻となった俺の体が寄りかかっていた。どうやら崩れ落ちてくる瓦礫から防御壁を張って守ってくれていた様だった。
「さっすが、〈深淵の猫〉の力は半端じゃないわねぇ。これじゃあの元司教様でもひとたまりも無い・・・」
 ノエルが壁が無くなって見通しの良くなったアパートの2階から眼下に見える資材置き場を見下ろしてそう言うが、その視線が一点を見つめたままで固まる。
「わけでもないみたいね・・・」
 俺もその突き刺さるような鋭い霊力を感じ、引き寄せられるようにノエルと同じ場所に視点が固定される。
 そこにゆっくりと立ち上がる人の姿があった。
 間違いなく、カルネアデスだった。
(危ない!)
 頭の中のトレミーがエーテルの集中を察知したのだろう、危険を知らせる声が響く。
 俺は慌てて近くに寝かせてあったままの自分の体を抱えて、すぐさまアパートから飛び降りる。
 ズガッ!
 俺とノエルが着地した瞬間に、今までいたアパートの二階部分が盛大に吹き飛ぶ。
 それをじっくりと確認する暇もなくノエルはすぐさま資材置き場の方へと駆け出し、俺も元の体をとりあえずその場に寝かせてからそれに続く。
「相手は生身だけど本人よ。かなりの手練れだから気をつけて!」
 走りつつノエルがそう言い、俺はそれに頷くと二手に分かれた。
 それに対しカルネアデスは迷うことなくこちらに向かってきた。
 距離が縮まるほどにその霊力が殺気と混じり合い、強烈なプレッシャーとなって俺に容赦なくぶつかってくる。
(ユークリッド、大丈夫!)
 俺の恐怖心を感じ取ったトレミーがそう頭の中で語りかけてくる。
 その声に意識を集中し、目前に迫るカルネアデスを見据える。
 トレミーが魔術を発動させ動体視力を強化しているのだろう、カルネアデスの動きが驚くほどゆっくりに感じられ、飛び込みざまの一撃を難なく交わすことが出来た。
 更に続けざまに来た攻撃を躱し、思うまま拳をカルネアデスめがけて振り抜く。
「ッ!」
 素人丸出しの単純な攻撃だったが、それは魔術で強化された筋力で放たれているのだ。当たればその威力は相当な物であることは明白だった。
 外れた攻撃を最小限の隙でカバーし、すぐさま体勢を変えたカルネアデスにはその拳は当たることは無かったが、トレミーの拳は筋力が強化されているだけでなくエーテルにより周囲の風を纏っており、発生した風刃がカルネアデスの外套の端を切り裂いていた。
「・・・我ながらやっかいな物を造ってしまったようだな」
 拳の風圧も利用して後方に跳び、距離を取ったカルネアデスがこちらを睨むようにじっと見据えてくる。
 俺は確かな手応えを感じていた。
 戦闘に対してはまったくの素人である俺だったが、それでもあのカルネアデスと互角以上で戦っているのだ。
(わたしとユークリッドが力を合わせたら絶対無敵なんだからっ!)
 トレミーも高揚する俺の気持ちをを感じているのだろう、歓喜するような声が頭の中に響いてくる。
「・・・だがっ!」
 爆発的に霊力を高めたカルネアデスが今一度駆けだし、一気に距離を詰める。
 それは肉眼では捉えられないほどのスピードだったが、今ならば難なく対応することが出来る。
 俺が拳に意識を集中すると、それに反応してエーテルが拳に集まってくる。
 これならば先ほどより広範囲に風の影響が出るはずだ。先ほどのように紙一重で躱されてもあの風刃からは逃れられないはずだ。
 俺は拳を構え、タイミングを計る。
「くらえっ!」
 だが、俺が拳を放った瞬間にカルネアデスは急減速を開始した。
 体勢を変え、足を地面に突き立てたのだ。地面が抉られて土が激しく巻き上がり、みるみるうちにスピードが下がる。
「っ!」
 俺は慌てて拳を戻そうとするが、既に十分に加速された腕は言うことを聞かない。
 魔術も筋力の強化は出来ても体重の大きさまでは強化することが出来ない。大振りの一撃と発動した強大な魔術はトレミーの体重をいとも簡単に持ち上げ、今では完全に宙に浮いていた。
 俺は慌てて精一杯手足を動かして藻掻くが、いくら強力な脚力があったとしてもそれを受け止める地面がなければ加速することは出来ない。
 動体視力が強化されゆっくりと落ちていく感覚の中で、減速を終えたカルネアデスがこちらに向かい拳を今正に放とうとしている所が目に入る。
(だめッ!)
 トレミーが慌てて防御壁を張ろうと周囲の空気を前に集めていくが、既に攻撃態勢に移りつつあるカルネアデスの一撃に間に合うかは分からなかった。
 まずい、と焦燥感が意識を塗りつぶしていく。
「そうはさせないわよっ!」
 突如視界に飛び込んできたノエルが防御もなにもない、渾身の突撃でカルネアデスを吹っ飛ばす。
 それに直前で気づき、防御態勢を敷いていたカルネアデスにダメージを与えることは出来なかったが、攻撃は阻止されて俺は無事に着地する。
「なにやってるのよ、さっさと倒しちゃいなさいよ!」
「威力が大きすぎて、うまくコントロール出来ないんだ!」
 筋力の強化もトレミーが勝手にやってくれるので、俺は魔術的なことを意識する必要は無いのだが、そのあまりの身体能力に俺自身の意識や反射神経がついて来れていないのだ。
 カルネアデスはこれだけの力を制御していたというのか。
 しかもカルネアデスがトレミーと接続していた時はトレミーが意識を失っていたはずだ。 つまり、ヤツは身体能力の強化やエーテルの制御を自分で行いながらも俺たちと互角以上に戦っていたというのだ。
 今度はノエルがカルネアデスに猛攻を仕掛けるが、ノエル自身もう戦える程の体力は残っていない事は明白だった。
 まるで遊ばれているかのように翻弄され、危うい一撃が何度もノエルに迫る。
 早く何とかしなければノエルがやられてしまう。
 俺は焦る気持ちを抑えつつ、今度は距離を取って間合いの外から空気の弾丸でカルネアデスを狙う。
「当たれっ!」
 ノエルの攻撃で一瞬カルネアデスの動きが止まった所を狙い澄まし、空気の弾丸を放つ。
 それは一直線にカルネアデスめがけて飛んでいく。
 軌道は体の中心を捉え、外すことは無いと思った瞬間、カルネアデスは地面を蹴って身を低くしながら前に跳躍し、空気の弾丸を頭上ギリギリで躱す。
「しまった!」
 これも完全に読まれていた。
 カルネアデスを通り越し、背後の地面に着弾した空気の弾丸はその瞬間に蓄えていた圧力を開放し、凄まじい爆風を発生させる。
 その爆風を背中に受けたカルネアデスは一気に加速し、あっという間に俺との距離が縮まる。
「・・・ッ!」
 その一瞬の出来事に動体視力が強化されていても対応することが出来ずに、ついにはカルネアデスとの距離がゼロになる。
 力強く肩をつかまれ、身動きがとれない。
 目前にカルネアデスの顔が迫り、その深く暗い双眸が俺の意識を貫く。
「我が契約に従え、アビス!」
 ガクンッ、と体が目に見えない力に大きく揺さぶられる。
 まるで誰かの意識が無理矢理割り込んでくるような気持ち悪い感覚が全身を襲う。
 これだけ接近されてしまうと真夜中のローブでも霊的な干渉を押さえることが出来ないのだ。
(いやあぁっ!)
 トレミーの意識が絶叫となって俺の頭に響き渡る。
(トレミーっ!)
 何とか視線を外し、カルネアデスの両腕を振りほどく。
 かろうじてトレミーの意識は感じるが、かなり弱まってしまっている。
 それに伴ってトレミーの魔術が機能しなくなっしまったのだろう、体中を駆け巡っていたエーテルの感覚が感じられなくなっていた。
「キミだけでは〈深淵の猫〉の力を使うことは出来まい。そろそろ諦める頃合いだ、ユークリッド君」
 こうなることをはっきりと予想していたのだろう、カルネアデスは嫌に落ち着いた素振りでそう声を掛けてくる。
「・・・」
 コイツには敵わないのか。
 ギリ、と奥歯を噛みしめて俺はカルネアデスを睨むように見上げる。
「どうするんだ?このまま素直に付いて来てくれると助かるのだが」
 カルネアデスは全く意に介する様子もなく、返答が一つしかない答えを問う。
 バシュ!
 突然、周囲の暗闇から一筋の光がカルネアデスを襲う。
「サカエ、おまえか」
 その攻撃を防御壁で弾き、カルネアデスは辺りの林の一点を見つめて言う。
 気づけば、いくつもの強力な霊力がこの資材置き場を囲むようにしていた。
「お久しぶりです、カルネアデス元司教殿」
 やがて暗がりから現れたのは、あのリサイクルショップの店主の姿だった。
 お店で見た時とは違う出で立ちではあるが、あの柔和そうな笑みはそのままだった。
「遅いわよ。まったく、どいつもこいつもギリギリなんだから」
「悪い悪い。少々上と揉めてしまってね」
 あのリサイクルショップのときの雰囲気そのままに、ノエルと店主がお互いに言葉を交わす。やはり二人は旧知の仲のようでその会話からは信頼の高さが伺えた。
「とにかく、これで形勢逆転ね。さぁ、観念なさい!」
 ようやく来た援軍の到着にノエルは勝利を確信し、カルネアデスにそう言い放つ。
「困ったな、さすがに一個中隊が相手では無事にと言うのは無理そうだ」
 言うほど困った素振りを見せるでもなくカルネアデスはそう言う。
 だが、言葉通りに冷静に状況を把握しているのだろう、いつのまにか弱められた霊力に抵抗の意志は感じられなかった。
「しかし」
 カルネアデスが急にこちらに向き直る。
 すべてを飲み込むような昏い視線が俺を射貫く。
「アビス、戻ってこい。さもなくばタダでは済まさんぞ?」
(べーっ!)
 押さえつけるような威圧を持った声でカルネアデスは俺を通してトレミーにそう言ったが、トレミーは自らそうカルネアデスに意志を送っていた。
「フン、まあいい。最低限の目的は果たしたさ」
 そのトレミーの意志を読み取ったのだろう、カルネアデスはつまらなさそうにそう言うともう一度辺りを見渡す。
 店主やノエルの援軍なのだろう、周囲には何十という強力な霊力を感じている。これを突破することはいくら強力な魔術を体得したカルネアデスといえど難しいはずだ。
 だが、カルネアデスならば全員を相手にしてでもこの場を打破する可能性はあるように思えた。
 その場にいる全員の意識がカルネアデスに集中する。
 突如、カルネアデスが爆発的に霊力を高め、腕を大きく振り下ろす。
「・・・!」
 突然の攻撃に全員が身構えるが、カルネアデスの腕はただ空を切っただけだった。
 予想していた攻撃がなく、不気味に静まりかえった周囲に俺はおそるおそる顔を上げる。
「・・・まさかっ!」
 はっとした店主がその現象の正体に気づいたのか、驚きの声を上げる。
 空間が裂けたのだ。
 改めて見てみれば、カルネアデスが腕を振った場所、何もないはずの空中に突如として裂けたような傷跡が現れたのだ。
 ここからではよく見えないがその中は真っ黒く塗りつぶされているようで、しかも中がうごめくように波打っていた。
「サカエ、くれぐれも私の邪魔はしないでくれ。と言っても無駄なのだろうが。まあ、あまり頑張らないでくれると助かるよ」
 カルネアデスはそう言って店主の方に一瞥をくれると、その割れ目の中へと体を滑り込ませる。
「下がるんだ!」
 それを見た店主は周囲を見渡すようにそう叫び、一斉にその場にいた全員が体を地面へと伏せる。
 やがてその割れ目の周りの空間が揺らいだかと思うと、バンッ!という凄まじい音がして、それとともに激しい衝撃波が全身を襲う。
 まるで空間自体に地震が起こったかのように、亀裂があった場所を中心に衝撃波が広がり、間近にあった木々は根こそぎ倒れるほどだった。
「あれは・・・」
「ああ、時空魔術だ」
 カルネアデスが去った後、不気味なぐらいの静寂の中でノエルがそう呟き、店主が頷いた。
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No title

こんばんわ、K27です。
今回も読ませて頂きました。

いやぁ~、設定が込み入っていて、とても良いと思いますよ。このラノベっぽさが、私は好きです。

挿絵も上手くて、文章に読み応えがありましたし。

続きが楽しみです!


etaさんへ

≫時間とやる気

確かに、モチベーションが上がらないと、中々書けませんよね。それに時間も忙しいと書く暇が見つからないですし。
う~ん、それにしても難しいですよね、私なんかホント汗顔の至りです。
時間を作るのって大変ですよね、本当に。

≫才能

大丈夫です! 十分才能ありますよ! etaさん!
小説も絵も書けてしまうんですから、凄い才能だと思いますよ。
それに、才能は書(描)き続ける事で成長しますし、自分では自覚がなくても、自然と身に付いてるとモノだと思いますから、自信を持って大丈夫です。


では、そろそろ失礼します。

コメントありがとうございます!

いつも読んでいただきありがとうございます。

読んでいただいただけでなく、励ましの言葉ももらえるなんて感謝感激です。
年度末に向けて忙しくなりそうですが、頑張っていきたいです~

§2のストーリーは今回でほぼ終わりです。
次回は§2のエピローグ的なものをちょっと趣向を変えてお送りする予定です。
比較的すぐに更新できると思いますので楽しみにしていただければ幸いです~
プロフィール

eta

Author:eta
まあ、適当に。

当ブログはTS(性転換)及び性的描写を取り扱います。
18歳未満の方、興味の無い方の閲覧はご遠慮下さい。

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