FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

web拍手

ラプラスの書§1-6

さらに続きです。
ついにはバトルに突入。

web拍手
マクスウェルの箱

【6】
「ここか・・・」
 しばらくしてようやく目的の音楽室に到着した。
 俺たちを見下ろすように立ちはだかる扉はいつもより大きく感じた。
 はるかが借りてきた音楽室の鍵を取り出す。
 ガチャリ。乾いた鍵の音がやけに大きく響く。
「吹奏楽部の子の話によると朝、練習に来ると机が移動してたり、酷いときはガラスが割れれていたこともあったんだって」
 懐中電灯で辺りを照らし、ざっと部屋の中を見回す。
 2日前に授業を受けたときのまま、なんら変わった様子は無い。
「特になにもなさそうだな・・」
「だよねー、幽霊なんているはずないもんねー」
 恐る恐る、教室の真ん中まで歩いていく。
 よくあるヴェートーベンとかモーツァルトなんかの表情が月明かりに照らされて、昼間以上に不気味に見える。
 昔から疑問だったけど、なんでわざわざ貼り出すんだろうな、教科書に載ってるのに。
 一通り教室の中を見回って、何も異常が無いことを確認する。
 窓の鍵はしっかりとかかっている。入り口のドアも鍵がかかっていたので、誰かが侵入してイタズラをしたということも考えにくい。
「よし、お札を貼って帰るか」
「うん!」
 待ってましたといわんばかりにはるかが浮いた声を出す。

 丁度、そのときだった。

 窓から射していた月明かりがスーッと、引いていく。
 恐らく月が雲に覆われてしまったのだろう。
 途端に暗くなった教室はまるで異次元に迷い込んだかのようにがらりと雰囲気を変える。
 なにか生暖かい風のようなものが吹き抜けたような気がする。
 はるかに抱かれている猫がフーッと毛を逆立て、何かを威嚇する。
 ガタン、ガタガタガタ・・
 突如として教室の端にあったテレビが揺れだす。
「・・・!」
 その規則的かつ、不規則な周期は明らかに風ではない。
ビデオ鑑賞用のバカでかいブラウン管のヤツで、猫なんかが動かせるような大きさでもない。
やがてその振動は部屋のいたるところから起き始め、教室の机という机がガタガタと震えだす。
「心霊騒音(ポルターガイスト)・・・」
 目の前で起こった異常事態のあまりの恐怖に、逃げることも忘れてただ呆然と震える教室を眺めているしかなかった。
「ゆーくん・・・」
 ぎゅっと俺の肩を掴むはるかの手に力がこもる。
 だんだんと音が大きくなっていく。
 昼間、太陽の光を恐れて散り散りに影に隠れていたモノたちが集まろうとしているのだ。
 そう、奴らは闇を歩くモノ。
 夜にこそ、その姿を現すのだ。
「今、何かぼんやりしたのが!」
「・・・ああ」
 はるかにも見えたか。
 俺は一度、幽体離脱してこの感覚を視覚に当てはめることに慣れている分、ソレをはっきりと見ることが出来た。
数メートル先、頭上2メートルぐらいの高さから俺たちを見下ろすようにいるソレは懐中電灯の光を当てられ、驚いたような表情を見せる。
まるで暗闇に溶け込むかのような黒い肌に細長い手足。背中には小さいながらにもコウモリのような羽が生えている。
低級の悪魔、インプか何かだろうか。
多少なりと〈ラプラスの書〉にも悪魔の種類は載っていたし、他にも自分で色々と調べていたので、ある程度の知識はあった。
だが相手の正体が見極められたとしても、状況が好転するわけではない。
鋭く吊りあがった目がぎょろりと俺たちを見回す。
(ほう、オレが見えるか)
 低く、威圧的な声を感じる。
声を耳で聞くのではない。幽霊の持つ意思の変化を直接魂が感じているのだ。
「な、何なのアレ!?」
「はるか、落ち着け。俺の言う通りにするんだ。いいな?」
 あまりの出来事に今にも叫び出しそうなはるかの肩をつかみ、真っ直ぐ眼を見つめる。
「う、うん」
 どうにかパニックを起こすことは避けられたようだ。
 とにかく今は体制を立て直すべきだ。はぐれた木津のことも気になる。
「今だ、走れ!」
 ダッと、一斉に戸口に向かって走る。
 先に扉に取り付いたはるかがドアノブを回し、ガタガタと力いっぱい前後に動かすが、一向に開く気配は無い。
「ダメ、開かない!」
「鍵は開けてあるはずだ!」
 今度は俺がドアノブを掴み、力いっぱい前後に揺するが、それでもびくともしない。
 逃げられないという恐怖が頭の中を塗りつぶしていく。
「くそっ!」
後から忍び寄る気配に背後を振り返る。
(フフ、残念だなぁ。鍵が開かなくて)
 獲物を追い詰めた快楽に醜く顔をゆがめ、インプがそろりそろりと近づいてくる。
 勝気なその笑みにはっとなり、ドアの錠の部分に手を当てる。
確かに何か力を感じる。
インプが魔力的な施錠を施したのだろう。
それは初歩的な結界でもある。「錠」という『物を閉ざすもの』に働きかけて、その作用を魔力的に行うのだ。
「錠」の部分にしか魔力を行使しなくて済むため、少ない魔力と簡単な魔術で実行できる。インプ程度の悪魔でも十分可能だろう。
 開錠の魔術は知っているが、施している余裕は無い。
(いいねぇ、その表情)
 インプはゆっくりとその手を俺たちの前にかざす。
 醜悪な笑みが一層深くなる。
(くらえ!)
 二人に向けて見えない力が放たれる!
「ぐっ!」
 俺は咄嗟に自分の霊力を制御してインプの魔力に対抗するように展開する。
強い圧力に意識を揺さぶられるが、なんとか堪えることが出来た。
「きゃっ」
 小さい悲鳴と供に、ふらっとはるかの体がバランスを崩す。
「はるか!」
 俺は慌てて倒れそうになるはるかの体を受け止める。
未だ自分の力の使い方を知らないはるかは、突然の霊力の放出をうけて軽く意識を失っているようだった。
 それでも元々の霊力の高さで大事には至ってないようで、呼吸もしっかりしている。
俺はそっとはるかを床に横たえる。
 しかし、このままでは埒が明かない。
いかに低級の悪魔といえど、人外の力を持つものに変わりは無い。
 逃げ道を塞がれ、もうすぐそこまでインプは迫ってきている。
 たとえ逃げることができたとしても、はるかを置いて一人で逃げる事なんてできない。
 俺ははるかの前に立ち塞がるようににインプと対峙する。
(ほう、おまえ少しは魔力が使えるのか)
 霊圧の放出に耐えた俺を興味深そうに見下ろす。
 今の一撃は何とか耐えることが出来たものの、俺はかなりの霊力を消耗していた。
 あと何回防ぐことが出来るか分からない。
「くっ・・・」
だが、俺には秘策があった。
鞄から箱を取り出し、儀式用のオイルで箱に〈開放〉の紋章を書く。
(それは・・・!)
 インプもその箱を知っていたのか、息を呑む雰囲気が伝わる。
〈マクスウェルの箱〉。
それは霊力を吸収する箱だ。
 起動した霊力に応じて〈場〉を展開し、その範囲内にあるものから霊圧の高い物だけを選別し、箱の中に閉じ込めることが出来るのだ。
「叡智なるマクスウェルの魔よ
 偉大なる力を持ちて
 力を統べよ」
 意識を集中させ箱に力を注いでいく。
 それに応じて箱も光を帯びる。
 発光した箱は細かく振動するが、その光が徐々に弱くなっていく。
「ダメか・・・」
思った以上に強力な霊力を持っていたか。
(そんな玩具、オマエみたいなヘボが持ってても意味無いだろ!)
 相手の霊力が高くなるほど〈マクスウェルの箱〉を開くために必要な霊力は高くなる。
 俺の霊力では〈マクスウェルの箱〉が起動するには至らなかったのだ。
(ふざけたマネしやがって!)
 再びインプの霊圧が高まる。
「ぐっ!」
 激しい衝撃が全身を襲う。
 強い霊圧によりポルターガイストのように霊力が物理的にも作用しているのだ。
 精一杯の力で対抗しようとするが、抑えきることが出来ずにバランスを崩して床に崩れる。力の抜けた手から〈マクスウェルの箱〉が滑り落ちて床の上に転がる。
「はぁ、はぁ・・・」
もう霊力の残りも少ない。次の攻撃を受ければ無事では済まないだろう。
インプに対抗できる唯一の手段も失敗した。
それでも俺は立ち上がる。
(往生際が悪いな、だが次で楽にしてやるよ)
 くそっ、ここまでなのか?
 悔しさで目の前が見えなくなる。
 頭上でインプの魔力が集中していくのが分かる。
(ハハハハ、壊れろ!)
 慈悲なんて一片もない、ただ弱者を踏みにじる快感に震える声。
その悪魔の声と供に邪悪な力が放たれる。
俺はせめて対抗しようとするが、残りの霊力では防ぎきることが出来ないのは確実だった。
 バリバリと頭上で見えない力が弾ける。
(なんだ!?)
 俺の絶望的な予想に反してインプの驚きの声が上がる。
 ゆっくりと眼を開ける。
 そこには一匹の猫がいた。来る途中にいたあの猫だ。
 凛然と俺の前に立つ猫の尾は二つに分かれ、一本が淡く光っている。
「猫又・・」
 日本でも長く生きた猫は霊力を持つとされ、その尾は二つに分かれているという。
(そこの人間、下がっていろ!)
 ついには言葉を話す。目の前の幽霊と同じく霊圧の振動による直接的な意思の疎通だ。
(最近このあたりをうろついてたヤツか)
 邪魔が入った事に気分を害したインプが苛立たしげに猫又を見据える。
(丁度いい、まとめて食ってやる!)
(だまれ、低俗霊が!)
 二本の尾を翻し、素早く駆け出した猫又は椅子から机へと軽い身のこなしで駆け上がり、そのまま高く跳躍してインプの頭上から体当たりを仕掛ける。
(うっ!)
 無論、ただの物理的な体当たりではインプにダメージを与えることは出来ない。
 猫又も霊力を制御し、体当たりの直前に自分の前方に霊力を集中させ、その上で体当たりを仕掛けている。
 インプとは対極の猫又の霊力が反発し打ち消しあうのだ。
 猫又は間髪を入れず更に数度にわたって攻撃を仕掛ける。
(鬱陶しい!)
 しかし、それも単なる時間稼ぎでしかなかった。
 インプは爆発的に霊圧を上げる。
(ぐあっ!)
 攻撃に飛び掛っていた猫又はあまりの霊圧に弾き飛ばされ、そのまま壁に激突する。
 壁に強かに打ち付けられながらも何とか体をひねり、頭から落下することは防ぐ。
 だが、それでも相当なダメージは受けている。
震える足で立ち上がろうとするが、力が入らずに起き上がることができない。
(さあ、遊びは終わりだ。その心、食ってやる)
 ゆらりと猫又を見下ろすように立ちふさがり、大きく裂けた口元から鋭い牙を覗かせる。
 この実体を持たないインプは相手の魂を喰らうことでその存在の糧としているのだ。
 最近多発していた動物の死骸もおそらくコイツが魂を喰ったのだ。
「バカ、こっちだ!」
 大手を振り上げたインプの背中にはるかの声が響く。

 そう、時間は稼げたのだ。

 俺が幽体離脱し、はるかの体に入るには十分すぎる時間。
流石、霞野の血は伊達ではない。
体の奥底に溢れんばかりの霊力を感じる。
インプの醜いその姿も今ならはっきりと見える。
(ちっ、憑依能力者か)
 こちらに向き直ったインプが忌々しげに告げる。
(だが、人間ごときに何が出来る!)
 インプはその暗黒の霊気を集中させていく。
 ついには霊圧が視覚的に感じられるほどに高められ、両手の間に真っ黒な塊を生み出す。
 生身の人間があれをくらえば一撃で精神が崩壊し、廃人となってしまうに違いない。
(潰れろ!)
 地獄から響いてくるような邪悪な叫び声と供に黒い塊が俺に向かって放たれる。
しかし、その黒い塊を目の前にしてもまるで恐怖を感じることは無かった。
 掌を突き出し、意識を集中する。
 体中を駆け巡る霊力が俺の意思に呼応して集まっていく。
 黒い塊と霊力がぶつかり合い、激しい反発作用が生じてビリビリと空気を振るわせる。
 激しい振動が教室全体を包む。
(バカな!)
 己の勝利を確信していたインプの表情が驚愕にゆがむ。
 はるかの霊力はインプの最大級の一撃すら防ぎきってしまったのだ。
「はるか、力を借りるぜ・・・」
 手にした〈マクスウェルの箱〉に意識を集中する。
 先ほどより数段強い光が箱から発せられる。
 やがて箱の角から幾条かの光線が放たれ、〈場〉を形成する。
(な、なんて魔力だ!)
 その強大な力を目の当たりにして、先ほどまでの尊大な態度とは打って変わったインプが恐怖の感情もあらわに逃げ出そうとする。
しかし既に遅く、形成された〈場〉から出ることは叶わない。
「叡智なるマクスウェルの魔よ
 偉大なる力を持ちて
 力を統べよ」
 凛としたはるかの声が俺の意思によって響き渡る。
ひとつひとつ言霊を紡ぐたびに霊力が高まり、集中していく。
(やめろおぉ!)
「我はユークリッド。
 箱を開かん!」
 箱はまばゆいまでに光り輝き、ガタガタと震えだす。
 やがて震えが極限まで達し、バカンッと箱の蓋が開く。
 その瞬間、構成されていた〈場〉にあるすべてのものから光が溢れ、それが奔流となって箱の中に吸い込まれていく。
 霊力の塊であるインプの体からはより強い光があふれ出し、その度にインプの霊力が失われていくのが分かる。
(ガアァぁあぁ・・・)
 野太い絶命の叫びを響かせながらインプの姿が薄れていく。
 実体を持たないインプは霊力そのものであり、霊力を失うことは存在を失うということなのだ。
 バタン、と箱の蓋が閉じ、ゆっくりと輝きを失っていく。
「やった・・・」
やがて光が収まると、まるで何事も無かったかのような沈黙が訪れる。
俺はあまりの安堵に全身の力が抜けて、ペタンとその場に座り込む。
 いつの間にか月が出ていた。
スポンサーサイト
[PR]

[PR]

 

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

eta

Author:eta
まあ、適当に。

当ブログはTS(性転換)及び性的描写を取り扱います。
18歳未満の方、興味の無い方の閲覧はご遠慮下さい。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
リンクについて
当サイトはリンクフリーです。
バナーは以下のものをご使用ください。
tsxlogos.jpg
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。