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ラプラスの書§1-5

さらに続きです。
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「マクスウェルの箱」

【5】
 そして、夜。
 校門前にはすでに人影があった。しかも二人分。
 なんだ二人っきりじゃないのか。
 普通にそんなことを考えてしまって、ぶるぶると頭を振って否定する。
 べつに何も期待してないぞ、俺は。
「もー、遅い!」
 俺の姿を見つけるなり、そう声を張り上げたのは木津。
 お前らが早いんだよ。まだ5分前だろ?
「なんでお前までいるんだよ?」
「かのちゃん、次の校内新聞に載せるんだって」
 俺たちをなだめるように横からはるかの声がかかる。
 げ、本当に着てきやがったよ。
 俺は改めて今のはるかの服装に驚く。やはり間近で見ると普通の格好とは明らかに雰囲気が違うのがはっきりとわかる。
 上は質素な白い小袖に下は鮮やかな朱色が眩しい緋袴。
 いわゆる巫女装束だ。
 俺は少しでも『やってもらっている感』をだそうと、はるかに巫女装束を着て来いという難題を突きつけて、それを許してやるという構図を描いたのだ。
 だが、あろうことか、はるかが承諾しやがった。
 はるかの巫女装束姿を見るのは初めてではない。
 昔から神社の行事には参加していたから、お祭りの時とかに何度も見ていた。
 それでも小学生と中学生では訳が違ってくる。
 いつもの長髪も後で束ねていて、より清楚な雰囲気が漂っていた。
「恥ずかしいからあんまり見ないでよ~」
 視線を感じたはるかが真っ赤になって身をよじる。
「ユウが着て来いって言ったんだってねぇ~」
 その横では木津が奇異のまなざしを俺に向けてくる。
 二人の視線が痛い。
「やめてくれ、これじゃまるで俺が変態みたいじゃないか」
「幼馴染に巫女のコスプレさせて呼び出す奴が変態じゃないとでも?」
 ごもっともです。
 でも、断じてワザとじゃないんだ。こっちだってまさかOK出すとは思ってなかったんだよ。
 だからといって、ここで下手に木津に言質を取られるようなことをすれば明日の朝一番に『ウキ中スポーツ』の号外が配られることになるのは目に見えている。
 もちろん記事は『徐霊にかこつけて幼馴染にコスプレを強要する変態生徒T』で、俺が一面にデカデカと載っているんだろうな。
 もしそんな事になろうものなら、末代まで変態の汚名を引きずって生きていかなくてはならなくなる。ただでさえネクラだなんだっていう良くない噂が広まりつつあるのに、これ以上クラス内でのイメージが悪くなるのは勘弁だ。
「ちげーよ、巫女の格好にはちゃんと理由があってだな、霊力を高める効果があるんだよ。ほら、昔から赤白は縁起がいいって言うだろ?」
 慌てて釈明すべく、それらしい理由を並べる。
 縁起が良くても徐霊にはあまり関係ないだろうな。実際除霊することになっても、それは俺だし。
「ふーん」
 うわ、木津のやつ少しも信用してないよ。
「まあ、いいわ。はるか可愛いし」
 なんだよそれ。
 気がつけば木津は俺のことなんてそっちのけで街灯の明かりの下、はるかをデジカメで撮りまくっている。
「かのちゃん、そんなに撮らないでよ~」
「いいねぇ、その表情。ちょっと裾のところはだけてみようか~」
 恥かしがるはるかとは別の意味でヒートアップしていく木津。
「こらこら、そんな事するために来たんじゃないだろ?」
「あーん、いい所だったのに・・・」
 俺はあくまではるかの巫女姿が目当てでないと証明するために事務的に事態を進める。
「あと、他に頼んだものは?」
「ちゃんと持ってきたよ」
 はるかがおもむろにお札を取り出す。
 霞野神社はこのあたりの氏神様で結構な歴史がある。
 きっとかなりのご利益があるに違いない。
 これで結界を張っておけば、霊も寄り付かなくなるだろう。
 もし幽霊騒動がなにかの間違いでも、お札を貼ったということになれば少なからず皆を安心させることが出来るはずだ。
「さてと、じゃあ幽霊退治と行きますか」
 俺たちは顔を見合わせてうなづくと、夜の中へと歩き出していった。
 
 幸いにも今日は月が出ていて、あたりはそう暗くなかった。
 校門は鍵が掛けられているが、校門を使わずに中に入る方法なんていくらでもある。
 俺たちは校庭をぐるりとまわり、校舎の裏手へと回る。
 ここにフェンスの切れ間があるのだ。そこから学校の敷地内に入る。
 俺たちの教室や職員室のある校舎は数年前にコンクリートで立て替えられたが、部室や特別教室のある校舎はそのまま木造だ。
 月明かりに照らされて旧校舎が無言でそびえ立っている。
 こうやってみると昼間より大きく見えるのは気のせいだろうか。
 現在裏の入り口の鍵が壊れていて修理中のため、ナンバー式の南京錠になっていた。木津によってその鍵の番号は調査済みで、そこから中に入る。
 誰もいない校舎というものはやはり不気味だ。
 暗い廊下に足元を照らす懐中電灯の明かりだけが闇を切り取っていく。
「初めは机とかが勝手に動き出したんだって」
 廊下を進みながら木津が今までの調査内容をポツリポツリと話し出す。
「それだけじゃないのよね。最近この学校の近くで動物の死骸が沢山見つかっているのよ。不思議な事にそれが目立った外傷ものないの。感染症の疑いがあるって大騒ぎになりかけたんだけど、検査したら一匹も病原菌に感染してないし。これはきっと何かあると思うのね」
 木津は新聞部らしく自ら取材を行っているようだった。
 一応、自称『ジャーナリスト』というだけあって、ただの興味本位ではないようだ。
「そいういうのは保健所の仕事だろ?」
「まったく、ロマンのない男ねぇ。もっと政府の陰謀とか、巨大製薬企業の恐怖の人体実験とかっていう発想は無いの?」
 木津の中ではそういった奇抜な発想こそロマンらしい。
「学校の地下に巨大な研究施設があるとか?」
「そうそう、分かってるじゃない」
 もしもそうだったら出てくるのは幽霊じゃなくてゾンビだな。お札じゃなくてロケットランチャーが必要だ。
 そう思いながらも、俺はあらゆる可能性を模索していた。
 俺たちの通うこの宇木中学校の歴史は古く、江戸時代の寺子屋が始まりだという噂もあるくらいだ。
 それに木造の旧校舎ならばより霊的な力を集めやすい。その霊力に引き寄せられて動物霊なんかが集まるのは良くあることだ。
「本当に何か出そう・・」
 はるかは周囲をきょろきょろと見回しながら心細そうに呟く。
「私は幽霊なんて非科学的なもの信じないんだから。もし幽霊なんていたら炭火であぶって美味しくいただいてやるわよ」
 へへん、と木津がそんなことを言った。
 ガタッ!
 突然、背後から音がする。
「何!?」
 慌てて木津が懐中電灯を向ける。
 そこには古びた木製の箱があるだけだった。
 まさか、この箱がひとりでに動いたとでも言うのか?
 自分自身の理解を超えた現象にちっぽけな冒険心なんてあっという間に飲み込まれてしまう。
 不安が、恐怖が、襲い掛かる!
 ガタン!
「キャーー!」
 不意に出た物音に悲鳴を上げながら木津が一目散に来た道を走り去っていく。
「落ち着け!」
 俺はとっさにはるかの肩に手を置き、じっと目を見つめる。
 はるかが泣きそうな目でこちら見返す。
 なんとか叫ぶことは堪えたようだ。こいつの悲鳴は耳に良くない。
「ほら、よく見てみろ」
 俺はもう一度、箱のほうに懐中電灯を向ける。
 カタカタと小刻みに震える箱。
「ひっ・・」
 はるかが息を呑むのが伝わってくる。
 ガタン、とひときわ大きく箱が動いたかと思うと、
「ニャー」
 奥からひょっこりと猫が顔を出す。
「なんだ、キミかぁ。脅かさないでよ・・・」
 昨日、掃除の時間にいた猫だ。
 どうやらまだこの辺りにいたらしい。あんな目にあったのに物好きな奴だ。
「もしかしたらコイツが原因かもな」
「あ、なるほど」
 雰囲気に呑まれて風や動物の仕業を霊的なものだと誤解することは良くあることだ。
 ことさら学校なんていうのは怪談の宝庫だから、より先入観に陥りやすいものだ。
 木津のことが気になったが、もう音楽室は目の前だったので、そのまま二人で行く事にした。さっさとお札を貼って帰れば問題ないだろう。
「とりあえず外に連れて行かないとな」
 またまた俺の足に擦り寄ってくる猫をあやす。
「うん、帰りにでも連れて行ってあげようか」
 最初は怖がっているようだった猫もはるかに抱かれると落ち着いて、すっかりはるかの腕の中が気に入ったようだった。

 そのまま音楽室への廊下を二人で進む。
 奥に進むにつれて、より闇の暗さが深くなるような気がする。
 俺だって怖くないといえば嘘になる。
 だからといってそんな素振り見せるわけにもいかない。一応、男の子ですから。
「あ、あんまりくっつくなよ」
 どさくさに紛れていつの間にかはるかは俺の腕に抱きついていた。
 自分でそうは言ったものの、頭の中は何も考えられないくらいに白熱している。
「だって、怖いんだもん・・」
 当たってる、当たってるから!
 この感触は猫なんかじゃない。猫は反対側に抱いてるはずだし。
 あと、その表情もヤバイ。『守ってあげなきゃ』という男心をダイレクトに揺さぶる。
 はるかと二人っきり。しかも密着してる。
 このままじゃ幽霊をどうにかする前に俺の理性がどうにかなる。
「懐かしいね。昔はよく皆で探検とかしたのに」
 やがて足音だけの沈黙に耐えかねたのか、はるかがそんなことを言った。
 そう言われてみれば、確かに幼い頃は『探検』と称して近くの林や山に嫌がるはるかを引き連れて日がな一日歩き回ったものだった。
「そうだな、よく泣いてたな」
 それでも俺の口からはそんな言葉しか出てこなかった。
 『怖くないか』とか、『俺が付いているから大丈夫』ぐらい言えないのかと自分でも思うが、いまさらそんなキャラでもない。
「ゆーくんのイジワル」
 拗ねたようにはるかが言った。
 もちろんはるかもそれは冗談で、俺が言ったことも冗談だとわかっていて、言葉では違うことを言っていても、別のところでちゃんと会話が成立している。

 きっと、今はまだこれでいい。
 ――でも、いつか。

 結局無言のまま、二人と一匹は暗い廊下を進む。
 廊下の突き当りを曲がれば、そこが目的の音楽室だった。
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